右から洋介と左から純。第3ラウンド

あきらさん

第1話

「時代は2820年。

 500年前に一度世界が崩壊し、人類は新たに文明を築いた。

 その過程で1人の天才が現れる。

 その男はこの世界の頂点に立ち、世界の全てを牛耳っていた。

 その男の名はマーカス・アレン。

 彼が成し遂げた功績は大きく、いろいろな事で社会に計り知れない影響を与えた。

 そして20年前に彼は亡くなった。

 彼が残した功績の中で、一番大きかったものは、ある一つの薬を開発した事である。

 その薬はあらゆる凡人を天才にし、どんなに頭の悪い人間でも、IQ240を超えるほどの頭脳の持ち主にする事が出来るという代物である。


 そう。

 彼が作り上げたのは、まさしく『バカにつける薬』なのである。

 その薬を服用した彼の弟子は今でも数人現存しているが、彼らでもその薬を作り出す事は難しく、IQ500とも言われていたマーカス・アレンが作り出した薬を再構築する事は出来なった。

 そこで世界では、残り少ない薬の争奪戦が行なわれ始める。

 バカにつける薬を奪い合う為に、高IQを持つ者同士の戦いが繰り広げられるのだ……………………



 ……………………という、物語を書きたいんだけど、どう思います編集長?」


「って、何の話!? 洋介、大丈夫か!? 俺、編集長ちゃうぞ!! 導入が凄過ぎてついていけなかったけど、また勉強し過ぎて頭おかしなったんか!?」

「そうかも知れん」


 どっちかというと、賢くなった気もするが……

 本当にそんな物語が書けるのであれば、絶対に見てみたいと思ったが、俺達はこれから滑り止めの滑り止めである、五流高校を受験しに行く所なのだ。

 巷では、名前さえ書ければ受かるとまで言われているその高校は、もはや俺達にとって最後の砦なのである。

 どうしてもここだけは落ちる事が許されない、人としての限界領域を試される受験でもあるのだ。


「洋介。自分の名前書く練習してきたか?」

「してきた。何回もしてきた。」

「よっしゃ! 今日は他の問題なんか気にしなくて良いから、とにかく自分の名前だけは書くんだぞ!」

「わ……分かった」

「そういえば洋介。お前、自分の名字言うの嫌がってたけど、何て名字なんだ?」

淀川よどがわ 佐衛門丞さえもんのじょう 菊之介きくのすけ 五郎丸ごろうまる 時宗ときむね……洋介って言うんだ」

「ながっ!!!」


 っていうか、ヤバい!!

 まさか、洋介の名字がそんなに複雑だったとは!!


「一応、書いて書いて書きまくったけど、10回中1回くらいしか成功した事がないんだ」

「そんな……」


 絶望的だ……洋介にとってはH難度くらいの成功率だ……


「名字は全て書けるんだが、洋介の洋の字が、横線が二本だったか三本だったか、いつも分からなくなってしまうんだ」

「そこー!? 書けない所そこなの!? 三本!三本!迷わず三本書け!!」

「でもここは日本だぞ?」

「だから、ややこしい解釈すなー!! こんな所で、変な愛国心出さないで良いから!!」

「わ……分かった」


 洋介はやっと納得したようで「三本、三本……」とブツブツ言いながら、試験場に向かって歩いていた。

 俺は洋介が考えた物語が気になり、試験に集中できなそうな気もしたが、バカにつける薬が欲しかったのは、洋介本人だったんではないかと思い、洋介の肩を抱きながら一緒に戦場に向かうのだった。

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