01-06.一抹の拒絶
バレてしまっては仕方がない。俺は潔く二人の前に姿を現す。
さて...どうしたものだろう。
非常に気まずい。悪口の対象に聞かれてしまうなど、それもあれほど散々ディスった相手のご登場とあっては...少なくとも明日から会うたび胃を痛めると思うよ、俺は。
相手もこちらの様子見かなと二人に意識を向ければ、カルロがさっきから俺の左手ばかり見ている。ああ、これ?
そうそう、ヤコポから貰った指輪。オレンジ色の宝石が嵌め込まれていて結構気に入っている。これが何の宝石か分からないんだけど。
ああ、そういうことではなくて、つまりは君たちの会話はまるっと理解している、という訳なんだわ。
カルロの視線に気づいたマルコもまた指輪に気づく。
「オレンジサファイアの指輪...しまった......認識阻害の無効か」
「そういうことだ。あれは先生の所有されるものの中でも最上位に位置する至宝。だからこそ、俺も計算に入れていなかった...」
つまり念には念を入れて傍受対策をしていたということか。甘いな...相手があのモチヅキならどうするつもりだったんだ?彼ならできるかもよ、今この瞬間この地点を覗き見る魔法の行使なんかが。
もちろん常識というものは、取り分け経験は簡単に否定できるものじゃないのは分かるんだけどね。
さっきのこともあったので鬼の首でも取ったかのようにニヤニヤしていたが、その時カルロが行動に出た。
右人差し指を頸動脈に押し当て、意を決した様子で話す。
「どうか私一人の命で許して貰えないだろうか。こいつの命もと言うのならマルコも迷わず命を差し出す。そういう問題ではないのならば、もちろん辱めを受ける。群衆の前で全裸になり、汚物を食し、...豚と性行為をしたっていい。だから...どうかそれで矛を収めてもらえないだろうか。ああ、そうだ...」
思い出したかのようにカルロは両膝を地につける。...ちょっと待ってくれ、それは...
そう、土下座だった。
時代劇も
ご丁寧に、とでも皮肉を吐きたくなる。カルロは血が出るほど額を地面に
それからゆっくりと、こちらを窺うようにだんだんと起き上がる。
絶句だった。
「...誰がそれをあなたに教えた」
キョトンとするカルロとマルコ。無理もない、そんなの分かり切った話なんだ。
「申し訳ない。これは...一種の逃避ってやつで、それとしっかり確認しておきたいんだ。誰がそれをあなたに教えたのかを」
途端にシニカルな感情が二人の顔に広がる。
「それは、もちろんモチヅキですよ。あなたの仲間のね」
「俺はアイツの仲間でも回し者でもない。...どんだけ言葉を重ねたところで、傍から見ればそう思うだろうけどね」
認識を修正する。都市で見聞きした彼の英雄譚はジャブのようなゴマすりで、その後の醜聞こそがメイン。想定以上に民衆に悪感情が広がっていたか。であるならば、彼らのような知識層は尚のこと義憤に駆られているだろう。
なんというか...十分なヘイト集めだよ!まぁ、こういうのは
頭の中でぶつぶつと考える俺が障ったのか吠えるようにマルコがキレた。
「その言葉を信じる根拠がどこにある!釣り上がったキモい目じゃ大して物事が見えないんだろうよ。肌もトロールの方がまだマシな...」
黙らせるように、カルロが一発マルコをぶん殴る。音が聞こえそうなほど強烈な一撃にマルコは派手に倒れる。そのままマルコの襟を
無言でこちらを見つめるカルロ。仲間を犠牲に
俺はゆっくりと彼らに近づいて行き、マルコの折れた前歯を拾った。
「治療できる奴が一人はいるだろ?ほら」
これにはカルロも断れず、黙って受け取る。
一瞬警戒が薄くなったところで、流れを変えるために俺は吹っ掛ける。
「ああ、そうそう。一つ頼まれてほしいことがあるんだ。なんというか...俺って悪の象徴みたいなものなんだろう?つまりは。そういう脅威が新たに出現したと知られれば、その情報は
ここで一旦止める。少なくとも話は聞いてもらえているらしい。魔法で止血し痛みを和らげたらしく、寝転がっているマルコも話を聞いてる素振りを見せる。
「調査を頼みたい、この国で俺の噂がどの程度広まっているかを。そして可能であればこれ以上漏れないように食い止めておいてもらいたいんだ」
「...どうしてそんなことを」
「もちろんモチヅキに知られないようにすることだよ。人の社会である以上魔術師の中にも派閥があるんだと思うけど、脅威の前では人は団結するもんだ。多分あるんだろ?君たち独自の情報網というものが」
「それが...」
「それをして何になる、か。ちょっと落ち着こうや、少し考えれば分かることだ。相手に準備をさせないこと、考える時間を与えないこと。攻める時は予想外の攻撃をし、
最も俺は無駄に善人面するから...これらの原則を守れてないんだけどね」
「............」
「信用できないのは分かる。君たちの情報網を抑え根絶やしにするためのモチヅキの罠っていう線も無理もない話だ。ただねぇ...彼に会ったことがないから何とも言えないんだけど、彼ってどの程度の知能を有してるんだろうね。よっぽどの
じーっと彼らを見る。
「まっ、それじゃあ...そういうことで。それと、魔法の修行に付き合ってくれてありがとう」
さらに疲れてヘトヘトだ。食事はいいから、もう寝よう。
俺は二人を背に寝室へと向かった。
懲役:異世界転生 武藤毅彦 @TakehikoMutho
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。懲役:異世界転生の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます