告白もメールだった。

三枝 早苗

1話完結

 本多 慶佑くんとは、11カ月付き合った。

 本多 慶佑くんは、少しぼんやりしてて、背がそこそこ高くて、小麦色の肌に星の砂みたいなそばかすをつけていて、よく笑う、そんなかんじの男の子だった。

 大人にとって11ヶ月の付き合いっていうのはすごく短いものかもしれないけど、私みたいなピチピチの高校生にとっては、けっこう長い時間だとおもう。だって今までそういう男女の特別な関係を築いたことがなかったから。思い出をごちゃまぜにしようにも、似たような思い出がないから、本当に小さすぎるようなことをすごく細かく覚えてる。

 例えば、初めてのデートは緊張してお互いの顔を見れなかったかわりに、私は本多 慶佑くんのちょっとだけハネた前髪ばかりをみていたこと。

 公園のベンチにならんで座ったとき、慶佑くんのスニーカーの靴ひもが片方だけゆるくなっていたこと。

 初めて手をつないだのはじっとりとした夏の日で、私は自分の手汗が気になってしかたがなかったこと。

 慶佑くんの左目の下にある小さなほくろがちょっとだけセクシーだと思ったこと。


「私、もう慶佑くんと彼氏、彼女でいたくない。」

そうメールを送ったのは、金曜日の夜だった。

 特別な理由はなかったと思う。最近あんまり連絡をとっていなかったからかもしれないし、お付き合い、という形によって生まれる変な距離を心地よく感じなくなっただけかもしれないし、不満が少しずつたまっていたからかもひれない。

 私は、別れても友達でいてくれるか、と尋ねたけど、それは無理だ、と返された。

こないだまで、好きって言ってくれてたのに、と慶佑くん。

だって好きだもん、と私。

好きならなんで別れたいのか、きかれたけど、それは私にもよくわからないから、慶佑くんのことは友達として好きなだけな気がするから、と返信しておいた。

 友達には戻れないよ、と言われて、それでもいいって返した。本当は、優しくて面白い慶佑くんと仲良くできないのは嫌だったけど、ここで、じゃあ、別れないっていうのは違うと思ったから。

 慶佑くんは、そのあとも何通かメールをよこしてくれて、俺がどれだけ変わってもやり直せないのか、とまで送ってくれたけど、私は、ごめん、とか、ごめんなさい、とかそういったことしか返すことができなかった。

 本当におしまいなんだね、と表示されたスマホの画面を見て、告白もメールだったことを思い出した。

 メールで始まって、メールでおしまい、と呟いてみた。私たちの関係って結局こんなもんだったのかな、と。

 うん、そうだね。と、返すのに少し時間がかかった。既読の表示はすぐについて、それから少しして、

「じゃあ、今までありがとう。」

とメールがきた。あっさりしてる、と思った。

 自分からふったはずなのに、もう寝る前にメールをチェックしなくてもいいと喜べるはずなのに、よろこぶことはできなくて、しばらく画面を見つめていた。

 やっぱり付き合いたい、とは思わなかったけど、目頭が熱くなってきてボロボロとわけのわからない涙がこぼれた。明日、目が腫れてたら最悪なんだけど、と全く関係ないことを考えながら、どこかで、「私、慶佑くんのことちゃんと好きだったんだなぁ」と感じていた。

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告白もメールだった。 三枝 早苗 @aono_halu

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