第47話 したいこと?

 俺はその日、学校の建設の為に俺が屋根の骨組みを作っていた。


 あれからというもの、アリスとヘレンに変化が起きた。


 まずアリス。


 次第に文字が読めるようになってきて、ヘレンに変わって教師役をやっている。


 魚獲り、裁縫、体育、読み書き、何度も自分で楽しみやっているわけだ。


 因みに姉との手紙の方も書けてはいるらしい。


 そしてヘレン。


 彼女はと言うと、戦いに勝ったことに気を良くしたのか、最近は訓練場を設けたいと言い始めた。


 家の近くに案山子みたいな人形をぶっさし、それを相手に夜な夜な奇声を上げている。


 因みに、島の女の子で戦い方を学びたい、という子にも個人レッスンで武器の使い方を教えたりしている。


 まぁ、双方とも怪我しない程度に頑張って貰いたい。


 それぞれが自分の新たな目標を見つけているようだが……。


「御主人様、そろそろお昼にでもしますか」


 メルナは家事担当ということで、今の所あまり目立ってはいない。


「おー、そろそろ飯の時間か」


 そう言って、骨組みのある場所から降りていくと、今日は俺が要望したおにぎり。


 やっぱり日本人ならおにぎりだよなぁ。


 他愛の無い話をしていると、俺は彼女がそういえば俺や二人の身の回りの世話ばかりしてくれているのを思って、何かしたらどうだろうか、と思った。


 いや、別に他の二人がどうとか、という訳でもないが、折角こうして皆が自分のしたいことで島の役に立っているなら、彼女のスキルも役立ててほしい、と考えたからだ。


「そういや、メルナは何かしたいこととかないの?」


「したいこと?」


「ほら、アリスは子供相手に教える事に目覚めているし、ヘレンは最近武術に目覚めてるって感じだし、お前もしたいことあるなら好きにやっていいんだぞ」


「そ、そうですねえ」


 と、言っても何かスラッと出てくる様子もない。


「ほら、自分の得意な事、好きな事とか」


「う、うーん、そうですねえ……」


 そう悩んでいると、彼女はハッとした顔をする。


「わたし、怪談話が好きなんですよ。だから、そうした話をしたいなぁとか」


 思わずズルッと滑りかける。


 いや、意外と言えば意外ではあるけど。


「ま、まぁそりゃ確かに好きな事なんだろうけど……。でも、何でそういった話が好きなの?」


「元々サマーレー島に居た時、色々な船乗りの人から自分の行った海での怖い話とか聞く機会が多くて、そういう話を聞いてると面白いなぁと思う事が多かったので」


「ふーん、例えば? あ、そこまで怖くないやつでね」


「ポピュラーので言えば、見た事ない生き物に会ったとか、幽霊船を見たとか、呪われた財宝が眠る島、とかの話です。あ、でもこのソウファ島でもそうした怖い話はあるみたいですよ」


「あるんかい!」


 思わずツッコミを入れてしまう。


 すると、メルナは淡々とした様子でこのソウファ島に伝わる怖い話?をしてくれる。


「……これはこの島に住む人から聞いた話なのですが」


 彼女はわざわざ雰囲気を作って話をしてくれる。


「この島はその昔、スモジュ島の徴税官でなく、この島専属の徴税官が居たのだそうです。ですが、その徴税官はとても乱暴な人だったらしく、色々なものを徴税しました。なので、島民から恨まれていました」


「ほう」


「……その徴税官があるときに島を出る機会があったらしいのです。それを聞いた島民が、その船に細工をして、沈むようにしたらしいのです。すると、案の定徴税官の乗った船は難破したのだそうです」


「ふむふむ」


「ですが、それがいけなかったのでしょうか、徴税官はそうして殺された事を恨み、船の沈められた日になると、海の方から船と一緒にやってくるそうなのです。その日だけは、決して漁はしてはならない、という決まりがあるようで……。って話です」


「ふーん、海難法師みたいな話だな」


「あら? 御主人様もこうした話はご存じで?」


「まぁ、俺の世界には妖怪伝承とか色々あってなぁ。それはそうと、俺が言いたいのはそうした事じゃなくて、島で何かやれることをやってみないかってこと」


「……なるほど?」


「ほら、アリスもヘレンも自分の好きな事で島の役に立ってるから、メルナも折角居るなら自分の好きな事で島の役に立って貰いたいな、って。無理にとは言わないけどね」


 そこでおにぎりをふと見て、俺は思いつく。


「そうだ。料理とかどうだ?」


「料理、ですか?」


「早々、何か料理で人を持て成すとか、どうだろう?」


 それを聞いて、メルナは顎に手を当て考えてから、


「それなら、レストランとかはやってみたいかな、とは思います」


 と、答える。


 彼女が言うには、厨房に立つ機会はサマーレーに居た時からあり、そこで料理についてイロハは習ったのだという。


 その際に、人に食べて貰う楽しさも知ったから、と。


 後、前に水晶亭に行った際、あの洗練された空間を自分で再現してみたいとも思ったという。


「ああした空間を自分で作れたら、素敵だなぁ、って」


 島にそうした食べる娯楽があるのもいいな、とは俺も思ったので同意した。


 うむ、ソウファ島にも娯楽施設を作ってみるか。

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俺の島!!! 新野仁 @jstanis

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