第229話 終わりの唄


「じゃあ、行って来ます」


 マリコが胸元に手を当ててお辞儀した。甲冑の上から外套を羽織った旅装である。

 同じく、旅装姿で、ホンゴウ、オオイシの二人が並んでいた。


 勇者一行の旅立ちです。


 鍛錬開始から8ヶ月。結局、迷宮ちゃんの10階止まりで、そこから上は苦しくなったので、取り敢えず情報収集の任務を与えて旅に出す事になった。二人だけだと不安だけど、マリコが一緒なら大丈夫でしょう。


「魔王城で会おう」


 俺はひらひらと手を振った。


「絶対に無理です」


 マリコが笑った。


 こちら側と魔界側。北半球と南半球は、使徒になった狂巫女さんが恐ろしく難解で堅固な障壁と結界で完全封鎖してしまいました。


 魔界との間を行き来するには、かつてホウマヌスの館があった迷宮を突破する必要があるのだが、あの迷宮は潜って行く内に、途中から迷宮ちゃんの5階へ転移させられる。そして、迷宮ちゃんを51階まで登れば転移門があって魔界へ跳べる仕組みだ。

 25階までは超人的な能力者が何人か集まれば辿り着くかもしれないけど、その先は悲惨でしょう。

 唯一の休憩場所である35階にはお店も出現する。そう、あの"お店"です。男性は迷い込まないよう祈りましょう。

 40階からは、宝石人形シリーズが数千という単位で襲って来る。

 なお、50階は龍帝の寝床になっています。


「こっちに残っている魔人はやっつけて良いからね。九皇家の残党とか居るかもよ」


「はい。スーラが居れば良かったんですけど・・何とか頑張ってみます」


 マリコが頷いた。

 ハクダンとスーラの間に子供が出来ちゃって、旅に同道できなくなったのです。高位神聖術の使い手だから一緒なら頼もしいんだけど、まあ仕方ないね。


「・・色々、迷惑かけて・・いつか、ちゃんと恩を返します」


 オオイシが神妙な顔で古風な事を言う。いつか、下の名前で気安く呼ぶような日が来れば良いね。ヒトミさんだったっけ?


「今だけ・・ユウキ君と呼びます。本当にお世話になりました。裏切る事ばかりして来たこと、この通りお詫びします」


 いきなり、ホンゴウが土下座をして頭を下げた。その身長を何センチか分けて下さいお願いします。


「うん、許します。3人とも、魔界はハードル高いから、ノルダヘイルに遊びに来てよ。正義の味方は疲れそうだからね」


「ありがとうございます」


 3人が揃ってお辞儀をすると、潔くきびすを返して出て行った。


(まあ、頑張れ)


 せっかく、地球へ戻らずに残ったんだから。

 月光の女神様の加護は貰えたし、薬や毒、呪いなどで捕まったり、操られる事は無いでしょう。まあ、知り合いを人質に取られたり・・そういう搦め手を狙ってくる輩はいるかもね。


 神樹の森の護りは、樹木の神様にやってもらう事になっている。森の民エルフや獣人はすっかり静かになっちゃた。

 ユノンを中心に女子会が開かれているので、それぞれの部族の長よりも、女子会に出席している女性陣が樹海の実権を握った大きな勢力になっている。ちゃっかりと、月光女神様まで参加しているとか。


 デイジーは神殿造りに勤しんでいる。破壊神を祀る神殿を各地に造ってどうする気なのか・・。


 大鷲オオワシ族は、全獣人憧れの獣神の加護を得たことで、一気に伝説の種族として(樹海の中では)最強の戦闘民族としてはやされるようになった。


 まあ、概ね問題無い。

 順番に報告を聴きながら、ふと同盟国の事を思いだした。海の方は何やら焦臭きなくさかったような・・?


「チュレックは?」


 ユノンを見た。


「周辺の国よりは落ち着いています」


「ノルダヘイルとの同盟は継続?」


「はい。ただ、リリン達を家に返せとうるさいです」


 実家というより、親族の類が出しゃばって来て、やいやい騒いでいるらしい。


「ふむ」


 俺は近衛騎士達を見た。


「帰りたい?」


「いいえ! このまま、御身の側に!」


 リリンが即答する。


「厄介払いされた身です。その際、誓詞も捧げております」


 ファンティが言う。


「そうだった。あれって司法の神様?」


 デイジーにいた。


「ふふふ・・すでに神に仕える身なのです。血縁などと、矮小な繋がりなど気にする必要はございません」


 狂巫女もとい、破壊神の使徒さんは今日も元気そうです。

 リリン、パエル、ファンティ、シフートがその通りですと力強く頷いているから良いのかな。


「・・ま、いっか」


 近衛騎士達には破壊神としての俺の加護を与えてある。単独で、迷宮ちゃんの30階に到達できるくらいになったし、今更、手放す気はありません。


「ただ、チュレックでは、現国王の暗殺計画が進行中で、リリンの実父である宰相も毒を盛られました。大事には至りませんでしたが・・未だにくすぶっているようです」


 アルシェ・ラーンが言った。


「こんなご時世に権力争いか・・・でもまあ、まだ国のていをなしているだけマシかな」


 フレイテル・スピナさんは、すっかりユノンの女子会の常連になって、樹海に住み着いちゃって、チュレックを放置しているし・・頑張らないと国が無くなりますよ?


 大陸では、かつての大国は事実上滅んじゃって、武装集団が各地で領主の真似事を始めていた。

 暴力に秀でた奴がやりたい放題な無法地帯が半分以上で、残る地域は魔物の脅威に立ち向かいながら秩序を保っているようだった。

 ただ、腕自慢の乱暴者に毛が生えた程度の戦士しかいないから、普通の魔物には対処できても、蛙巨人ジアン・トード巨蜂ホーネットには手が出せず、凶魔兵が来たら諦めて食われるしか無いという状態だ。

 この辺は、三勇者の今後の活躍に期待しましょう。


 問題は、次の報告だ。


「ノルダヘイルの近くには魔物が寄りませんので、河向こうに建てられた神殿には大勢の避難民が身を寄せているようです」


 ユノンの報告を聴くなり、俺は即座にデイジーを見た。


 神殿を建てさせたのは、こいつです。

 破壊神をまつった神殿ですよ?

 そこに避難してくるとか、もう、飛んで火に入る的な・・。


「神殿だけでは収容しきれませんので、街を造る予定です」


 デイジーが涼しい顔で言う。くっ、こいつ、どんどん図太くなっていく。


「・・みんな破壊神だと知ってるんだよね?」


 一応いておく。


「もちろんです」


「なに? お前が町長とかやってんの?」


 横目でにらんだ。


「人の身における最高位は、アルシェを任命しました」


「は?」


 どうして、そこでアルシェ?


「私は使徒ですので。俗世には深く関われません」


「へぇぇ・・そうなんだぁ」


「花妖を保護する効果が期待できます」


 ユノンが言った。


 今後、街に入る際には、花妖への迫害行為の有無を問われる事になるらしい。


「司法神では無くとも、断罪の神の加護により嘘偽りは裁けますので」


 そう言えば、デイジーにわれて断罪神の加護をあげたっけ?


「神都の名称でございますが、コータと名付けさせて頂きました。ご承認感謝いたします」


「ふぁ?」


「こちらに」


 デイジーが、承認申請書を見せた。


 あれ? 俺の署名がしてある・・。適当に署名しまくった中にまぎれてたのか?


「あ・・」


 俺が見ている前で、デイジーが誓詞として断罪神(俺)に捧げてしまった。


「大丈夫です。少し発音が違いますから。コウタでは無く、コータです」


「うん、はい」


 もう、好きにやっちゃって。


「流浪している避難民の希望の地として、その名に恥じぬ街にして参ります」


 アルシェが決意の表情で低頭した。

 いや、そんなに意気込まなくても、適当で良いよ。デイジーとか放っておいて良いから。こいつ、頭おかしいから。


「では、教皇アルシェ・ラーン。神都コータを頼みますよ」


「使徒様、お任せ下さい」


 2人が意気投合したように熱い眼差しを交わしている。いつの間にか、第2の狂巫女さんが育成されていたらしい。


(・・まさか?)


 ある疑念が脳裏を過って、俺はユノンを見つめ、すぐにデイジーを見た。


「コウタさん?」


 俺の視線に気付いて、ユノンが小首を傾げた。


「チュレックにも神殿を建ててたよね?」


「はい。ちょうど、スピナ様の離宮近くに土地を頂きましたので」


「・・ははは」


 俺は、ごくりと喉を鳴らしつつ、大陸図へ視線を向けた。嫌な予感しかしません。


「カグヤ、神殿の位置を」



『はっ!』


 今や、俺の右腕と言って良い、軍服女子さんが大陸図上に、赤いマークを投影していく。


「ぉぅ・・」


 かなり、赤いです。狙ったように、旧国境地帯の要所には赤いマークが点灯していた。

 チュレックを見ると、迷宮都市を含めた主な町には全て神殿が建っていた。

 さらに南方へ視線を向けると、バーゼス、ターループ、ルシアンダ、ギノータス・・赤いです。こんなに神殿を建てて、誰がどうやって管理するの? 何考えてんの?


(うん、見なかった事にしよう)


 俺、神様だから、細かい事を気にしちゃ駄目だよね。


「魔界はどうかな?」


「順調と言って良いかと」


 ユノンが言う。


「入植地を出て、各地で村や町が作られています。魔物の跋扈は続いていますが、警備兵の練度も上がっていますので、被害はかなり抑えられているようです」


「悪魔は?」


「見かける端から駆除しておりますので、魔界から逃れて、こちらに来ているようです」


 台所の黒茶色をした虫みたいな奴等だ。


「今のマリコに敵うような悪魔は存在しませんので問題無いかと」


「うん・・それで、ホウマヌスとデギオヌは?」


「魔界全土の統一に向けた戦略を策定中です」


「・・うん」


 頷きながら、拭い去れない不安を感じて、横目でデイジーを見た。


 俺の視線を受けて、デイジーが慈母の微笑みを浮かべて頷いて見せた。


「ご安心下さい。魔界においても、神殿を建立こんりゅうしております」


「・・魔人って、神様をあがめたりするの?」


「"破壊の神"と"断罪の神" さらには"獣の神"であらせられるのです。いかに信心薄い魔人と言えども・・」


 デイジーが炎が宿っているかのような熱い眼差しで俺を見つめる。


「それに、コウタ様は魔界において破壊神として幾度も顕現し、破壊の限りを尽くされておいでです。二度と同じ目にはいたくないと、魔人で無くとも誰しもが思うところ」


「いや、あれは・・ほら、初めて兎になって、ちょっとビックリしちゃって」


「巨大な白い獣が駆け抜けた後には、轟音と共に総てを撃ち壊す突風が襲い、いつ果てるとも分からぬ雷撃は延々と大地をき続け・・」


「うん・・魔界のために頑張るよ、俺」


 亡くなった多くの神々、魔神達に誓おう。

 俺が必ず魔界全土を復興させることを・・。


「各地の神殿は、有事の際には城として使えるよう、幾重もの頑丈な城壁で囲ませました」


「・・はい?」


「蟻魔人のギィーロンはとても有能ですね。土木に関して、あれほどけた者を他に知りません」


「ええと・・つまり・・これ、全部が城なの?」


 まだ、魔界には20ほど・・でも、こっち側には200近い数の赤点が灯っていますが?


「ま、まあ・・普段はあれだろ? 地元の人がちょっと掃除したり・・せいぜい、2、3人の神官さんが居て」


「司祭1、助司祭4、神官10、巫女20名、神殿兵100名を最小単位として配しております」


「・・・いやいやいやいや、どっから、そんな数を・・」


「信徒には、衣食住が保証されるのですから。魔物を恐れる必要は無く、ただ祈り、ただ捧げれば良いのです。成りたい者はあふれかえっております」


「ふぅぅぅ・・ん」


 もうヤダ・・誰か、こいつ止めて。


「無論、誰でもと言う訳には参りません。素養のある者を選別し、配属後も適切に訓練を行いながら来たるべき日に備えさせております。ご安心くださいませ」


 デイジーが凄く良い笑顔です。


「・・って、なに? 来たるべき日? それって何なの?」


 危うく聞き流すところでしたよ?

 こいつ、さらっと何を言ってやがりますか?


「審判の日でございます」


「しんぱん・・?」


「いずれ、人々は必ず大いなる過ちを犯します。これは、有史以来、止むこと無く繰り返されてきたこと。お優しいコウタ様をもってしても許されざる出来事が起こるでしょう」


 デイジーさんが、預言者のように告げた。


(こいつ、ヤベぇ・・)


 いや、知ってたけども。常々、確信していたけども。


「コウタさんは魔界を支配しますよね?」


 不意に言ったのは、ユノンさんです。


「ま、まあ・・魔王だからね」


「世界の半分はコウタさんの支配下ということです」


「・・そうだね」


「マリコ達がこちら側を巡回して、ある程度の成果はあげるでしょうけど、若い女の子3人組に、どれほどの人が命を捧げて戦いに身を投じるでしょうか?」


「ぅ・・うん、まあ・・」


「3人に戦わせて、適当に褒め称えて、上手に操ろうとする輩ばかりが群がって来るのでは無いでしょうか?」


 ユノンがいつもの物静かな表情で語る。


「小さな村・・集落を回って人助けをしても、国そのものは崩落し続けています。かつてのような人の暮らしを取り戻すためには、コウタさんが世界を支配するしかありません」


「ええと・・ユノンさん?」


「ずうっとじゃ無くて良いんです。ある程度の安定が見えたところで、王様をやりたい人に譲ってあげれば良いんです。ホウマヌスさんやデギオヌさんのように、こちら側にも、ある程度は信頼できる人が居ると思います」


 ある程度作った上で、誰かに移譲するべきだと言う。


「マリコ達は?」


「他の2人は知りませんが、マリコはコウタさんが大好きですから。コウタさんに付いてきます」


「・・そ、そう?」


 なんか、さらっと新情報が混ざってますが・・。


「他のノルダヘイルの人も同じです。コウタさんに代わって王様をやりたい人は居ません」


「なんか、いつの間にか好感度が上がりまくり?」


「ずうっと前から上がりまくりですよ?」


 ユノンが首を傾げるようにして見つめてくる。


「ははは・・」


 なんか、笑ってごまかすしか無いような・・。


「本当ですよ?」


「・・そうなの?」


「はい」


 ユノンがじっと心を覗き込むように見つめたまま頷いた。


「ふうむ。それは・・凄く嬉しいけど、何て言うか責任を取れないって言うか」


「あら、コウタさんは何も気にする必要はありませんよ?」


「そう?」


「みんながコウタさんを好きになります。全員に応えていたら、何万という数になりますよ?」


「まさかの高評価・・」


「私は嘘を言いません」


「・・でした」


「コウタさんは、今まで通りでいて下さい」


「・・はい」


 俺は素直に頷いた。


「私達が・・コウタさんを好きになったみんなが、世界の総てをってきます」


 ユノンが口元を綻ばせた。


「その上で、世界を滅ぼせと仰るなら、滅ぼしてご覧にいれましょう」


 デイジーが微笑する。


(ヤベぇ・・うちの奥さんと愛人さんがヤベぇ・・)


 俺はそうっと近衛騎士達へ視線を向けた。


(うぅっ・・)


 熱いっ! とことん真っ直ぐな視線が注がれています。


(アルシェは・・)


 まあ、そうだよねぇ。

 花妖さんが美貌を紅潮させて熱っぽく見つめています。


 ユノンがみんなに代わって告白したような事態になっちゃってる。


(ゲ、ゲンザン、シフート・・たすけ)


 数少ない男性陣へと視線を泳がせると、いかにも当然という顔で腕組みをして頷いていた。


(使えねぇ・・)


 何だか追い詰められた気分で、視線をユノンへと戻すと、


「だから言ったじゃないですか。アズマさんより、よっぽど危ないって」


 ユノンの瞳が悪戯っぽく光っている。


「えと・・?」


 訊き返そうとした。

 その時、



『"ことわり"の評価により、称号が付与される』


 ビジネススーツを着た小学生が登場した。喚びもしないのに勝手に出てくるなや!



「・・なに?」



『ハーレムキング!』



「・・ちょっ・・訂正と撤回を要求する!」


 ユノンとデイジー以外には指一本触れていませんよ!



『ユノンの英雄』



「む・・それは悪く無いね」



『マリコの想い人』



「ちょっ・・」



 それ公表しちゃったら駄目なやつでしょ!



『パエルの想い人』



『ファンティの想い人』



『花妖の想い人が昇華して、アルシェの神へと変化。以上の称号が追加された』



「おおぉぉい! 何を言っちゃってますか!」


 焦って叫ぶ俺の前で、



『また来る』


 ちびっ子精霊が消えて行った。



(どうすんの・・これ)


 クライシス確定ですよ!

 俺は怖々とユノンを振り返った。まずは本丸です。


(あれ?・・意外に冷静そう?)


「もう、ずうっと前から心配していましたから。今さらですよ?」


 ユノンが笑った。ただ、気のせいか、眼が笑ってないような・・。


「ええと・・とにかく、みんなありがとう!」


 俺が強引にまとめようとした時、


「ハーレムキングとは何ですか?」


 リリンが真面目な顔でアルシェに訊いた。


(くっ、空気読んでぇ~)


 俺は腕組みをして、難しい顔で円卓の上にある大陸図を見つめた。


「ユノン母様、想い人ってなに?」


 止せば良いのに、フランナが参加してきた。


(こいつっ、ここで来るのか!?)


 腕組みをしたまま、俺は背を冷や汗に濡らして立ち尽くしていた。



****



 神王暦という耳慣れない暦になった。

 魔界では、魔王暦に統一された。


 すべての人々の夢枕に神が顕れて告げたのだった。


 神王は、美しい少女のような少年の姿だと伝えられている。


 魔王は、可憐な幼女のようだったと伝えられている。


 そして、そのどちらにも、常に美しい女達が寄り添っていたと・・。


 満月の夜になると、この世のものとは思えないほど巨大な白兎が夜空を跳ね、巨大な龍と戯れる世界・・。


 世界に隕石が降り注いだ大災厄の始まりから7年・・。


 魔界にある魔王の城へ、3人の勇者がやってきた。


「元気そうだね」


 俺はにこやかに手を振った。なお、魔王ごっこをやる時は幼女姿です。ホウマヌスさん力作の衣装を着せられて、巨大な玉座にちょこんと座っています。


「王様も、皆さんも元気そうで・・お久しぶりです!」


 マリコがお辞儀をする後ろで、ホンゴウ、オオイシの長身美人が床に片膝を着いて低頭した。


 俺の左右には、ユノンとデイジーが寄り添い、玉座と勇者達の間には、アルシェ、リリン、パエル、シフート、ファンティが立ち並んでいる。さらにはホウマヌスとデギオヌ、ギィーロンのも控えている。


大鷲オオワシのみんなも、もうすぐ到着するよ」


 左右から、ユノンとデイジーに手を引かれ、俺は3人の前へと近づいて行った。


「お土産があるって?」


「はい。たぶん、王様宛です」


 マリコがホンゴウを振り返って頷いて見せた。


「こちらに」


 ホンゴウが背負っていた包みを下ろして床で解いて広げた。


「・・これを何処で?」


「ヒーロン砂漠と呼ばれている場所です。少し南のジェーリンという町に滞在していた時に、物凄い音がして・・隕石が落ちたような爆発でした」


「なるほど・・」


 俺は、それをじっと見つめた。ディスコなんかにあったミラーボールみたいな物です。


「調べたんですけど、キラキラするくらいしか分からなくて・・ヒトミが、あっ、オオイシです。コウタ王様に見せたらどうかって」


「うん、よく持ってきてくれた。ありがとう」


 俺はにんまりと笑みを浮かべた。


「何ですか?」


 ユノンとデイジーが、ミラーボールっぽい玉を観察する。


「・・タケシ・・リュードウ・・アヤコ・・ユウキ・・・開けゴマ」


 俺は、光る玉に向かって声をかけてみた。パスワードっぽい何かで動き出したり、どこかが開いたりするかも?


「これ、リュードウさんから?」


 ユノンが軽く眼を見開く。


「うん、間違いない。あいつが送って来たんだ。問題はどうやって、開けるか、起動させるか・・なんだけど」


 俺は光る玉の前にしゃがみ込んで考えた。


 あいつの事だから、知らない奴に勝手にいじられるのは嫌がるだろう。手に負えない仕掛けか・・何か。


「・・ガチ友?」


ふと思いついて声をかけると、



『声紋承認・・パスワード確認』


 光る玉から機械音声が聞こえて、上部から筒状に光が伸びて、小さくリュードウの姿が浮かび上がった。



『ユウキへ、メッセージを送る。まだ、通信機というわけにはいかんが、これがお前の元へ届く事は確信している』



「元気そうだ」


 俺はその場に胡座あぐらを組んで座ろうとした。途端、左右からユノンとデイジー吊り下げられて、手早くすそを直され、女の子座りをさせられてしまった。

 うちは、しつけが厳しいんです。



『解錠された物は座標の誘導装置になる。隕石の落下に耐えられる場所へ置いてくれ』



「なるほど・・次から、これ目掛けて飛んで来るのか」



『さて・・思ったより時間がかかった事を詫びる。想定以上に距離のある航海となった。途中で神を気取った管理者どもの攻撃を受けたからな』



「やっぱりな」



『まだ、地球までは到達できていないが、お前との約束を思わぬ形で果たせたのでな。土産として、そちらに送る』



「おっ!?」



『捕獲して記憶を読み取る際に、少し加減を誤った。だが、お前の目当てターゲットである事は確認したから安心しろ。すでに正常では無いが、精神体を容器に固着させてあるから逃げられん。好きにするが良い』



「・・さすがガチ友だぜ!」


 いい仕事するよね。


 玉の一部が手前に倒れて、出来損ないのヌイグルミみたいな物が転がり出た。これが容器らしい。


「コウタさん?」


 何か感じたのか、ユノンが緊張を含んだ眼差しを向けてくる。


「うふふ・・俺の心残り」


 俺は、愛槍キスアリスを取り出して握った。


 受けた恩とうらみは忘れませんよ?

 動けないヌイグルミの中に居るものが、俺を覚えているかどうかは知らないけどね。



「やあ、迷子ちゃん元気かな? ボク? 破壊神になっちゃったコウタ君だよ?」


 俺は、にこにこと満面の笑みを浮かべて愛槍キスアリスの穂先をヌイグルミに向けた。



 月兎の光霊毛・・



 兎技を発動しつつ、真珠色の穂先をズブズブとヌイグルミに突き入れていく。



 ・・カンディルパニック!



 凶悪な摸写技を発動。


 さらに、



 ・・一角尖


 破城角っ!



 霊体となった身で自慢のコンボを叩き込み、俺は小さく息をついた。



『・・最後になるが、我の最愛の女が無事に生誕した事を伝えておこう。お前の言ったとおり、我は・・至福の毎日を送っている』


 リュードウのメッセージが続いている。



「リュードウのおかげで、地球の・・元の世界での心残りを一つ片付けることが出来たよ」


 ユノンの細い腰に抱きつきながら、俺は呟いた。


「・・ちゃんと、後で説明する」


「はい。ちゃんと、白状して下さい」


 ユノンが微笑しながら幼女姿の俺を抱きしめた。


(う~ん、良い匂い・・)


 柔らかな胸乳に顔を押し付けながら、ゆっくりと身体の力を抜いていく。

 俺のお嫁さん・・。

 ユノンと出会わなかったら、俺はどうなってたかなぁ・・。


「ありがとね、ユノン」


「コウタさん?」


「・・なんでもない」


 小さく首を振って身を離した。


(お腹痛くなるかな?)


 俺は、ヌイグルミを拾ってかじりついた。





~ おしまい ~





ーーーーーーーーーー


異世界 英雄譚 【完】


ーーーーーーーーーー


というわけで、物語は終わりました。



英雄譚とは・・?


世界は、どうなったん?


地球がヤバいんじゃ?


ってか、最後に食べたの何?


スピナ様が出なくなった?


お店の元男性陣は?


などなど、放置したものがいっぱいですねぇ。


コウタ君は、英雄じゃなくて、神になってしまいました。(すみません。


リュードウ君が、急に良い人になりました。(なんか流れで。


アズマ君は、結局何がしたかったん? (さあ?


リリンちゃん他は、想いを遂げたの?(どうかなぁ・・



最初の頃は、コウタ vs アズマで締めくくろうかと思っていたんですよ、ええ・・。

途中で、これは無理だと諦めて・・。だって、アズマを強くする気が起きなくて。

リュードウ君に頑張って貰おうとしたんですけど、なんか、コウタ君と気が合っちゃって・・。

もう、神様に頑張って貰うしか無いと思った時には、コウタ君が無双状態になってて・・。

"少年"で武神、"幼女"で魔神、"兎"で獣神・・良いじゃん!とか思った時期もありました。

でも、あぁ無理だぁ・・もう誰も勝て無いわぁ~と。

我が家の作品、主人公&ヒロインが強すぎるものばかりですよねぇ。

題名と違う? きっと風邪ひいたり、お花見で酔ったりしたせい・・。


そういう事なんで、、、、



また、別の作品でお逢いしましょう!


by. ひるのあかり


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異世界 英雄譚 ひるのあかり @aegis999da

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