夜分恐れ入ります

白地トオル

25:30 伊吹信也のミッドナイトデイズ▽夏のおススメ歌謡曲その他

 時刻は二時三十二分になりました。

 『伊吹信也のミッドナイトデイズ』、こんばんは、ラジオパーソナリティーの伊吹いぶき信也しんやです。初めてお聞きになる方はお見知りおきを。一時台からお聞きになっている方は引き続きよろしくお願いします。


 さてこの時間は皆さんからのお便りをご紹介していきます。


 では最初の一通です。

 ええ……、R.ラジオN.ネーム「石の上におり万年」さんからのお便りです。


「信也さん、初めまして!いつも男らしい信也ボイスに癒されながらベッドの中で聞いています!」


 ありがとう。


「今日は、私が学生の時に噂になっていた都市伝説についてお話します」


 都市伝説……、いいですね。暑い夏にピッタリじゃないですか。


「高校二年生の時の話です。突然毎日のように、校内でカップルができたという話を聞くようになったんです。しかし、その当時はとくに異性と距離の縮まるような行事はありませんでしたし、都内の小さな私立高校なので生徒数もそれほど多くありませんでした。それなのに毎日誰かと誰かが結ばれていたのです」


 華の十代、若いって羨ましいですねえ。


「私はその理由がどうしても知りたかったので、最近隣のクラスの男子と付き合うことになった友人に馴れ初めを聞きました。すると彼女は一言こう言ったんです。って知ってる?と。私が知らないと言うと、彼女はそっぽを向いてその場を去っていきました。私は彼女の機嫌を損ねてしまったと思い、謝りに行きましたが、彼女は平然としていました。初めからそんな話をしていないと言うんです。

 しかし、どうしてもその理由が気になった私はそれからも、周りのカップルに馴れ初めを聞き出そうとしました。しかし、みんな口を揃えてヤブンオソレイリマスって知ってる?と言うだけでそれ以上のことは口にしようとしません」


 ……、初めて耳にしましたねえ。


「しかしある日のこと、とあるカップルの会話を偶然聞くことができました。彼らの話によると深夜の二時三十四分にと言って会いたい人の名前を呼ぶと、その人が目の前に現れるというのです。友人にこのことを問い詰めると、彼女は更に機嫌が悪くなり、私と全く口を聞いてくれなくなったのです。余談ですが彼女とはクラスの同じ男子のことが好きで、いま思うと私にその都市伝説を知ってほしくなかったのかもしれません(笑)かっこわらい


 好きな人が別の女の子とこっそり会ってたら嫌ですもんねえ。気持ちは分かります。


「ただその子は一つだけ私に教えてくれました。『決して死んだ人の名前は呼んではいけない。呼ぶと自分がその人の元に現れることになる』と言ったんです。どうやら皆が口を閉ざしていたのもそういう不気味な話もあるからということでした。信也さん、どうでしょう?こんな都市伝説信じますか~?」


 いやあ、僕もね、…これは初めて聞きましたけども、『恐れ入ります』といえば先日旧友に聞いた話なんですが、『おそ入谷いりや鬼子母神きしもじん』って言葉ありますよね。え?知らない?…あ、作家の古川さんはお若いんでまだお聞きになったことがないかもしれませんね。このね…『恐れ入谷の鬼子母神』というのは『恐れ入ります』という意味の言葉なんですが、この『鬼子母神』というのはね、仏教を守護する夜叉クベーラの部下でパーンチカというのがいるんですけど、その奥さんに当たるんですね。この奥さんなんと一説には一万人も子がいたと言われるんですけど、その子たちを養うために人間の子供を捕まえて食べまくっていたそうなんですよ。で、そんな怖い存在である鬼子母神の名を借りて『恐れ入谷の鬼子母神』という言葉が生まれたという話なんですね。


 『』…、にわかに信じがたい都市伝説ですが、そこには言葉に秘められた知られざる力が働いているのかもしれませんね。


 では曲に参りましょう。

 夏の歌謡曲と言えばこの人、在りし日のお姿をお偲びいたします、鈴川みどりで『ほとりの河鹿』―――――。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜分恐れ入ります 白地トオル @corn-flakes

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ