火花その3

 吉田家のダイニングテーブルには、和真くんに夏奈ちゃん、そして吉田さんに夏芽さんが勢揃いしていた。私はぺこりと頭を下げて、改まって切り出す。


「今日は皆さんに、私の得意な料理を食べて貰おうと思います」


 いつもと違う、ちょっとかしこまった様子の私を、和真くんと夏芽さんは楽しそうに眺めている。吉田さんと香奈ちゃんは、状況がよく分からないのか、ちょっとフワフワしている感じだ。


「実は私、お料理とか全然駄目なんです。でもひとつだけ得意な料理があるんです。『バターしょうゆご飯』って言うんですけどね……」


 私は、お茶碗と、雪印の「切れてるバター」の箱と、お醤油を取り出す。皆が不思議そうに顔を見合わせる中、吉田さんだけが笑いをこらえる様な顔をしている。


「まず、お茶碗に暖かいご飯を盛ります。そしたら次に……」


 そして私は、一歩前に足をすすめた。


-了-

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火花を刹那散らせ 吉岡梅 @uomasa

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