第8話

「お願い!りん〜!一緒に来て!」

親友の一生のお願い、とやらで希望者のみが行くその行事に参加する羽目になってしまった。私─牧野 凛─はジリジリと照りつける太陽の下、自宅を目指して歩いていた。本来ならこんなくそ暑い日に外なんて絶対出たくないし何が悲しくて糞ガキと戯れなきゃいけないんだか、とぶつくさ文句を言いながら始まった2週間は案外悪くなかった。将来は子供関係の仕事に就こうかしら、と思うほどだった。

でもそんな幼稚園実習も今日で終わり。

きっと泣かれちゃうだろうなぁ、とは思っていたが一番懐かれていた壮くんという男の子にはだいきらい、とまで言われてしまった。かわいいなぁ。子供は本当にかわいい。汚れを知らないのだ。


「どうしたん、りんおねーちゃん。」

「…え、いや…たっちゃんたちは汚れてないなぁって思って。」

「えーそんなことないで!ほら見てみ!」

そう言うとたっちゃんは土まみれの手のひらを見せた。

「…ほんまや。たっちゃんも、汚れてたな。」


今日のたっちゃんを思い出して、吹き出した。

そうだ。汚れててもきっと幸せだ。

幸せに、なれる。

12年後の自分に聞いた質問に今、答えが出てしまった。

「タイムカプセル作ろう!」

そう言い出したのは他でもない、私だったが公園で穴を掘り先生に見つかったら怒られるスリルを子供たちも楽しんでくれていたようで良かった。

「タイムカプセルって?」

「大人になった自分たちにお手紙を書くんだよ。」

「りんおねーちゃんって今なんさいやっけ?」

「え、高3やけど…」

「じゃ、こうさんの僕らにかく!」

あの子たちはどんな大人になるんだろう。

どんな高校生になってるのかな。

あの子たちの未来が幸せなものになっているといいな。その隣に私が居たらもっと、いいな。

こんな思いになれたのは実習に行ってからだ。行って良かったなあ、とつくづく思う。誰かのお願いもたまには聞いてみるものだ。

道端にたんぽぽが咲いているのが見えた。この世界は美しいものがたくさんある。美しいものに囲まれているこの世界にいる人すべてきっと美しい。

たっちゃんも。壮くんも。美雪ちゃんも。

そして、私も。

みんなも自分自身も愛することができたら幸せになれるのだろう、と思う。それにはまだ少し時間がかかりそうだけど。でも、きっと、できるだろう。私にはまだまだたくさん時間があるのだから。

そういえば歩道橋の上に綺麗な花が置いてあったっけ。あれは誰か死んだんだろうか。このたんぽぽも置いてあげよう。たしか花言葉は別離。あの世でも綺麗な花が咲いているのかな。その人に届けばいいな。少し遠回りになるがたまには悪くない。来た道を戻り逆方向を歩きだす。

たんぽぽの香りが鼻に心地良い。

幸せだ、と思った。

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わたげ @843Rd4M

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