第30話 エピローグ
なんてことだ! わけがわからない!
今年度、私立神代学園高等学校に入学した千歳春香は、頭を抱えながら、校内を早歩きで歩いていた。
ブツブツと何かを呟きながら、顎に手を当てたり、急に大声を上げたりするその様に、すれ違う生徒や教師たちは、奇異の目を向ける。
だが、自分に向けられるそんな目線もまるで気にせず、春香は特別棟のある一室を目指す。
その目的は、今学校内で噂されている、不可思議極まりない奇妙な事件の現場を、なんとその目で目撃していしまったからである。
好奇心旺盛な春香は、その真相を明らかにしようと、躍起になって自ら調査に取り組んだまではいいが、まるで手も足も出ず、途方にくれた。
そこでふと思い出したのが、もう一つの噂。クラスの中で女子の友達たちと話している時に聞いたものだ。
この学校には、こういった謎を調査し、解決まで導いてくれる特殊な部があるという。
しかもなんと、部員はたったの一人だけで、さらにその部員は、とんでもない美少女で、昨年度の学年末テストで断トツの成績で学年トップをとった才色兼備のお嬢様だとまで囁かれている。
ふんっと、春香は、鼻で笑った。心の中でだが。
――私は知っているのだ。人の噂というのは、人づてに伝わる中で面白おかしく脚色されていくものなのであると。特に、女子生徒の噂。これは当てにならない。女は三度の飯より噂が好きだと言われる程に、噂好きな生き物。彼女たちの話す噂は基本的に半信半疑で聞いておいた方がいいということ。
今まで女子校で生きて来た私は、それをよく知っている。
そんな部活の存在も疑わしいし、もし仮に存在したとして、そんな人がそんな寂れた部で、女子にとっては最大の青春であるこの貴重な時期を費やすわけがない。
だがまあ、興味がないわけではない。本当にそんな部があるのかだけ確かめて、もしあったら適当にひやかして帰ろう。
そんな思惑を抱えながら、春香はついに、その噂の特別相談部の扉の目の前に到着した。
確かに、「特別相談部」と書いてある。中に、人はいるのだろうか。
春香は半ば緊張しながら、その扉をノックする。
「はい。どうぞ」
あまりに早く返ってきた、美しくそして品位の感じる綺麗な返事に驚いて、背筋を伸ばすと、恐る恐るその扉を開けた。
そこには噂以上に可憐な美少女が、豪華な茶革の椅子に腰かけながら、にっこりと笑ってこちらの方を見ていた。
「ようこそ。今日は、どういったご用件で?」
完
変態探偵とお嬢様助手の特別相談部 セザール @sezar
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