デジャブだ……

 ──8月。スイートメリーハウス。

 東京の夏ははっきり言って異常だ。太陽の日が“ 暑い”というより“熱い”。この異常な暑さは外出を避ける理由としては十分で、健人もまた、夏休みにも関わらずバイトかレッスン以外ではほとんど家を出ないのであった……。


 「引きこもりで悪いな」


 引きこもってくれた方が色々と都合が良い。なんせこのシェアハウスには自然と人が寄ってくる。ようわ物語が進めやすい。


 「都合良いな!?」


 そんな語りをしていると、やはり新たな来訪者。


 「こんにちはー!誰かいませんかー?」

 健人は2階の自分の部屋で寛いでいたが、下の階から声がした。基本的にこういう来客等の対応は各自で手が空いてる人が──ってのがルールなのだが、どうやら健人以外は手すきではないようだ。

 仕方なくリビングに降りると玄関で大きめのダンボールに座っている見知らぬ女性が1人。見るからに年上でスタイルは細く、茶色の髪は胸元まで伸びている。


 「デジャブだ……」

 夏実との出会いもこんな感じだったことを思い出し、額に手を当て、呟く健人。


 「お!良い所に!ここの人?」


 「そうですけど、何か」


 「大家さんっているのかな?もしかして、君?」


 「いえ、ただの住人です。大家さんはここには住んでないですよ」


 「そうなんだー……じゃあ」

 そう言うとその女性は「ニッ」と笑って健人の顔を見る。健人は目が合った瞬間、若干嫌な予感がしたのか後ずさる。


 「じゃあ、君でいいや!ここに住ませて欲しいんだけど」


 「え?」


 「部屋空いてないの?」


 「いや、多分空いてますけど、大家さんに言わないと」


 「じゃ、連絡取ってっ」


 「飛び込みで来たんですか?」


 「そう!携帯持ってないの私」


 「はぁ······分かりました」

 勝手な人だなと思いながらも口には出さず渋々大家さんに電話をかける健人。突然の来訪者はリビングに上がり込み嬉しそうに辺りを見渡している。


 「今から来てくれるみたいです、大家さん」


 「そっ!良かった」


 「お茶、飲みますか?麦茶しかないですけど」


 「助かるー!喉乾いちゃって」

 食器棚からコップを1つ取り出して麦茶を注ぐ。


 「綺麗でいいお家だね。私憧れたんだ、シェアハウス」


 「へー、珍しいですね」


 「そう?」


 「うーん、やっぱ知らない誰かと住むのってストレス感じる時もありますよ」


 「そういうの平気な人が憧れるんだよ」


 「まぁ、そうですよね」


 「それか······」

 健人の顔を覗き込むように顔を近付ける。


 「君みたいに俳優を志して上京してきた下積みの子」


 「え······役者やってることどうして知ってるんですか」


 「ふふっ。歌舞伎町のホステスをなめるなよ少年。人間観察には自信があるの。この人はこういう人だなーって」


 「凄いですね」


 「今は疲れて休業中だけどね。何も考えたくなくて商売道具のスマホも解約。マンションも売却。スッキリしたー!」


 「それでダンボール一箱抱えて憧れのシェアハウスに辿り着いたと」


 「正解!まぁ、気が向いたら出ていくから。しばらくよろしくね。」


 「何か、良いですね。自由で」


 「そう見える?これでも色々な物背負ってるのよ。······世の中お金が全てじゃないよ」


 「······俺には分かんないですね」


 「まぁ、今は夢に向かって精進したまえ。それが幸せへの道だぞ。······君、名前は?」


 「平沢健人です」


 「私は明日香。よろしくね」



 このシェアハウスには自然と人が寄ってくる――。このタイミングで新たな登場人物が出てくるのもごく自然。


 「都合いいな」


 「え?どうしたの?」


 「いや、何でも」


 ある程度都合がいいのも、また物語の醍醐味。

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君とエチュード〜君がくれた未来〜 大西ひかる @pix

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