4. 月下の公園
目を覚ました。辺りは暗くなっていた。その上、視界がぼやけていて、そこがどこなのかが一瞬分からなかった。しかし、もたれかかってる木を見て、思い出す事が出来た。
ここは昼間に来ていた公園? 秋人君が男の子達の仲間に加わった後、そのまま寝てしまっていたようだ。
また、いつもみたいに体がだるい。昼間に風を起こしたあの力。あれを使うといつもこうなる。起き上がる事もままならない。
体が動かないとどうにもならない。とにかく今は、体を動かせるようにしないと。目を瞑りどうすれば良いか考える。
少し考えてみたが、何も思いつかない。諦めて目を開ける。視界の先に空を遮るように枝葉が生い茂っていた。
立派な木。こんなに丈夫なら少し力を分けてもらっても大丈夫よね? そう思い、木に触れて目を瞑る。
意識を集中する。手のひらが温かくなるのを感じ、それが全身に広がる感覚。暖かくなったところから、だんだんとだるさが和らいでいく。
目を開けると視界ははっきり戻っていた。ありがとうと心の中で呟く。風も吹いていないのに、枝葉がざわざわとなる。気にしなくていいよ。そう言ってるように聞こえた。
まだ本調子ではないが、木のおかげで動けるようにはなっていた。
木の影から出て月の光を浴びると、体がまばゆい光に包まれた。体の力を抜きリラックスをし目を閉じる。体が少し暖かくなり、だるさがなくなっていく。
頬に何かが触れてる感触ががあり、それを確かめるために目を開ける。
その正体は目の前の光景ですぐに分かった。光に導かれたのか数匹の小さな虫が飛んでいた。
目の前にいる虫を振り払う。すぐに振り払えたが、勢い余ってその場で転んでしまう。
転んだ恥ずかしさに固まって居ると、頰に先ほどとは違う感触が。温かく柔らかく、少し湿った物が優しく触れてきた。
今度はなに? そう思いそちらに目を向ける。虫と同じく光に導かれたのか、そこには小さく黒い一匹の仔猫がいた。
可愛い。
その場に座り手を伸ばす。仔猫が警戒するように身構える。
手を引っ込めて少し考えて、思いついたことを実行する。目を閉じて力を使う。体に少し重力と空気の流れを感じる。
目を開けると、景色は一転していた。夜なのに明るく感じ、すべてのものが大きく、ぼやけて見えている。
自分の手を見てみる。いつもと明らかに違う。白い毛に覆われ爪は伸び、そこには肉球も付いていた。
仔猫もこの姿に興味を持ったのか、真っ黒な尻尾を揺らしながら、こちらに近付いてくる。
品定めをするように、私の周りをゆっくりと歩きながらこちらを見てくる。私はそれを体をひねりながら、目で追いかける。
目の前で止まり緊張を解いたのかリラックスして座りこちらを見つめてきた。それを私も見つめ返す。ゆっくりと時間が過ぎていく――
相手の目の印象が変わったと思ったら、それを合図にこちらに飛び掛かって来た。
私はそれを横にかわし、猫パンチで応戦する。当たらないと思ったけども、相手の体にあたってしまう。あ、やってしまったと固まってると、相手も猫パンチを飛ばしてくる。
そこからはもう大変。猫パンチの応酬が始まり、少しでも隙を見せてしまうと飲まれそうになる。お互い本気で叩いてないけど、数が増えると少し痛い。さすがに堪らなくなり、相手に背を向け距離を置く。
少し離れたところで、後ろから飛び掛かられる。このままだとやられる一方なので仰向けになり猫パンチで応戦。隙を見て攻守を入れ替え、今度はこちらが上になる。
暫く攻守を入れ替えじゃれ合ってると、遠くで猫の鳴き声がする。
それを聞いて動き二匹のが止まる。上になってたが相手がそちらに目をやったので、私もそちらに目をやる。
そこには目の前の相手より一回り大きく、落ち着いた様子の黒い猫がいた。
ゆっくりとこちらに歩いてくる。その姿は堂々として、まるで百獣の王のような威厳があった。
じゃれあった体制から、取り繕うように並んで座る。二匹は借りてきた猫の様に大人しくなる。
目の前に来て、窘めるようにもう一鳴き。
隣にいる相手を見ると、相手もこちらを見ていて目が合った。
それから二人そろって前を向き、謝るようにうなだれた。
その姿をみて許したのか、今度は優しく鳴いた。こちらに背を向け、ゆっくり歩く。着いておいでと言うように、隣の相手を見る。
隣の相手が鳴いたので、そちらを見る。寂しそうにこちらを見てた。
その鳴き声を聞き目を見ると、私も寂しくなってくる。相手の鳴き声に応えるように小さく弱く鳴く。
相手がさらに近くに来て、小さな体を摺り寄せてくる。お互い体を摺り寄せてハグをするような形になる。
急かすように鳴き声が聞こえる。ハグを解き見つめあう。別れを惜しむようにゆっくりと離れていく。
大きな猫について歩く。何度かこちらを振り向いたけど、やがてそれもしなくなる。そのまま、まっすぐ去っていった。
一人残された公園の中。元の姿に戻りベンチに座り、自分の親について考えていた。
私の親ってどんな人だったんだろ? そもそも私に親っていたのかな?
考えても答えは出ず、そのまま家に帰ることにした。
座敷わらし 桜牙 @red_baster
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