3. 小さな一歩
――太陽が輝いて眩しい空の下。家のそばの公園に来ていた。
私はというとその公園にある大きな木の陰で涼しみながら隠れて親子の事を観察している。
夏真っ最中――蝉がけたたましく鳴いていた。それにも負けないように子ども達のはしゃぎ声が賑やかだった。
その声から少し離れた所。秋人君が汗をかき、バケツとスコップを使い、泥団子を作っていた。
「ママ、見て見て。おっきいお団子作ったよ」
自分の手に余る大きさの泥団子を自慢げに掲げ、近くのベンチで座ってる渚さんに見せている。
「ほんとに大きいね。すごいすごい」
渚さんが手を打ちながら秋人君を褒めている。
やはり、この親子を見てると暖かい気持ちになる。嬉しくなって自然と笑顔になっているのを感じる。
――何かが足に触れてる感覚があったので、そちらに目をやった。
するとそこには犬が私の足に擦り寄っていた。
その犬はそこそこ大きく、毛並みは綺麗で上品な感じ、可愛らしい目をして暑そうに舌を出しながら、こちらを見上げていた。
可愛いいし人懐っこそうなので、頭を撫でたいと思い手を伸ばす──
「ワン!」
撫でられる事を拒否するかのように吠えてくる。
急に吠えられてビックリする。撫でる事を諦めようと思うが、よく見ると尻尾を激しく振り、とても嬉しそうにしている。
――撫でても大丈夫かな?
そう思いなおし、再び手を伸ばす。今度は吠えられる事なく撫でることができた。
触り心地がよく撫でててとても気持ち良く。犬も撫でられてとても嬉しそうな顔をしてるように思う。
観察をしなきゃと思い出し、撫でるのを辞めた。まだ撫でて欲しそうに少し寂しそうな顔になり、足に体を擦り寄せて来る。
少しかわいそうにだったが、そのまま気にせず親子の観察を再開する。
泥団子を作り終えて、今度は砂の山を作っていた。
しっかりと土台を整えていて、その大きさから結構な大きさの山になりそうだった。
横からアピールしてくるような音が聞こえるので、目だけでそちらを見る。
そこには先ほどの犬が、ぐるぐると回っていた。こちらが目にしたのに気が付いたのか、今度は仰向けになり、お腹をこちらにだし尻尾を振り、撫でて欲しそうな目でこちらを見上げてくる。
撫でたい誘惑に負けそうになったけど、そのまま前を向く。
「ワン!」
唐突に吠えられたので一瞬体が硬直した。鳴き声の方に振り向く──
犬がこちらに向かって飛びかかって来ていた。
なすすべがなく倒されてしまい馬乗りされた状態になる。
一瞬の出来事で何も出来ずに驚いてたら、今度はその体制のまま顔を舐めて来る。
誰か助けて――
「ジョン!」
遠くの方から誰かを呼ぶ声が聞こえて来た。
その声に反応するように犬の動きは止まり、キョロキョロしている。
声の主を見つけたのか、そちらに駆けていく。少し行った所でこちらを少し見て小さく吠え、そのまま駆けて行った。
飼い主さんが呼んだのかな? なんにしろ助かって良かった。立ち上がり着物を直し、木に隠れ観察を再開する。
秋人君は山を作るのを中断しており、渚さんの隣に座っていた。休憩しているのか水筒で何かを飲んでいた。その表情はどこか寂しげに見えた。よく見るとどこか遠くを眺めていた。
その視線の先を見てみると、男の子達がサッカーボールを蹴り遊んでいるのが見える。
みんな笑い合ってとても楽しんでいるようだった。
視線を秋人君の方に戻しよく見ると、ボールを追いかけるように、視線も動いているように思えた。
もしかして、あの男の子達に混ざりたいの? 一緒に遊びたいのかな? そんな事を思っていると、休憩が終わったのか砂場に戻っていた。やはり男の子達が気になるのか、そちらばかり見て集中できないようだった。
渚さんの方に目を向けると、秋人君の方を見た後、秋人君の視線の先に目をやっていた。
その表情はいつもみたいに笑顔ではなく、少し曇っているように見えた。
そんな親子を見ていると少し心がざわざわしていた。
このままでは嫌だ、なんとかしたい。胸の前に手を組み目を瞑り祈った。
まぶたの裏が少し明るくなるのを感じ目を開ける。手の中が小さく光っていたので、手を開き中を見る。蛍くらいの小さな光体が、そこに浮かんでいた。
いつものように指の先で触れてみた。すると、光体は弾けて消えてしまった。それを合図にしたかのように急に強い風が吹いてきた。
遠くで男の子達が声をあげていたので、そちらに目を向ける。ボールが風に煽られて秋人君の方に転がって来ていた。
それに気が付き秋人がボールを手に取る。
男の子達のうちの一人がボールを追ってやって来た。
秋人君はその子にボールを渡してからうつむいていた。
「一人で遊んでるのか? よかったら一緒に遊ばないか?」
男の子はボールを受け取り秋人君に訊いた。
「いいの? やりたい!」
男の子のについて行こうとしたが、その前に渚さんの方へと振り向いた。
私もそちらに目をやると、渚さんは笑顔が戻っていて大きく頷いていた。
その顔を見て秋人君も笑顔になり二人で男の子達の元へと駆けて行った。
男の子たちのはしゃぐ声に秋人君の声が加わりより一層にぎやかになった。
だからなのか、少し明るくなったように感じたので、空を見上げると太陽が眩しく輝いていた。
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