2. 陽だまりの家

 カーテンの隙間から刺す日の光とスズメの鳴き声で目が覚めた。

 完全に目が覚めてるわけではなく頭が働かなかい。それでも昨日の晩の事を少し思い出す。余計な事まで思い出してしまい顔が熱くなるのを感じる。完全に姿を見られたけど忘れてくれてるかな? 思い過ごしで終わると良いけど──


「ママー、朝だよ。起きて。お腹が空いたよ」

 突然の大きな声にびっくりして完全に目が覚めた。

 辺りを見回し誰もいない事を確認してほっとする。


 何が起きてるのか知りたくて、ドアを開け廊下を見回す。ドアが開いてる部屋から会話が聞こえてくる――内容は遠くてよくわからない。

 

 少しすると会話が終わり、人が出てくると思い部屋へと戻る。


 足音が部屋の前を通り過ぎた後。外の様子が気になり、ドアから顔を出す。足音の方へと目を向けると、秋人君が振り返った。


 慌てて出してた顔を戻したが、また見られた気がする。目を瞑り胸に手を当てる。心臓が早く大きくの脈打つを感じ、落ち着かせるためにゆっくりと呼吸する。


 廊下の方からドアの閉まる音。ドアを開け慎重に辺りを見回し、ゆっくりと廊下に出る。二人が入っていった部屋の前、中の様子は気になったが何も出来ずにいた……

 

「朝ごはん出来たわよ」

「わあ、美味しそう。いただきます」

「いただきます」

 やはり、中の様子が気になった。ドアを開けて中を見てみる。

 

 秋人君と彼の母親のなぎささんが向かい合ってテーブルに座っていた。ここからだと机の上がよく見えないが、二人で朝食を食べているようだった。

 話し声や笑い声が部屋に響き、とても楽しそうだった――


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

 二人は食事を終え、挨拶をした。

「あーくん、歯を磨きに行こうね」

 そう言うと二人は席を立ちこちらへと歩いて来た。


 ――このままでは見つかる。

 そう思い咄嗟にドアの後ろに隠れる。

 目を瞑り呼吸を落ち着かせる。通り過ぎるのをじっと待つ――

 

 二人が部屋から出て行った。

 見つからなくてほっとする。


 緊張が和らいだのを感じ、楽しさの余韻の中へ入っていく。先ほどまでの雰囲気とは違い誰もいなくて寂しい空間になっていた。

 

 何を食べていたのか気になりテーブルに向かう。このままではテーブルの上が見えないので、椅子の上に立ちテーブルの上を覗く。

 

 そこにあるお皿の上には緑のよく分からない形の物体が残っていた。

 あんなに楽しそうに食べてたので、どんな味なのか気になった。

 謎の物体を手に取り、いろんな角度から見てみる。見ているだけでは味が分かるはずもない。意を決して目を瞑り一気に口にする。


 恐る恐るゆっくりと噛むと苦味が口の中に広がっていく。こんなの無理と思いながら途中で出すわけにも行かず我慢して飲み込む。思わず目を瞑り口を開けて舌を出していた。

 こんなものを美味しそうに食べてたの? 私にはこの良さが分からなかった。


 ドアが開かれる音。誰かが入ってくる?

 見つからないようにテーブルの下に隠れた。ドアの方を見てみると、渚さんが入って来た。


 渚さんは手際よく食器を洗い場に持って行き、そのまま洗い物を始めた。楽しそうに鼻歌を歌いながら洗っていた。

 その姿をテーブルの足を掴み、身を乗り出すように見ている。

 先ほどまでの寂しい雰囲気がなくなり、また楽しい雰囲気に包まれた――


 ふと、秋人君がいない事が気になった。辺りを見まわしてもこの部屋いなかったので探す事にする。


 ――まずは洗面所にいるかな? そう思いそちらに探しに行く。

 かすかに歯磨き粉の甘い匂いが残っていて、洗面ボウルは少し濡れていた。確かにここに居たようだが、今は居ないらしい。


 ――次に思い当たる場所は秋人君の部屋かな? そう思いそちらに向かう。

部屋に近づくと中から楽しそうに話してる声が聞こえた。引き寄せられるように無警戒のままドアを開けてしまう――


 中を見てみるとベッドの上でヒーローと怪獣の人形をそれぞれ手に持ち遊んでいた。

「――くらえ! 必殺キィィィック! ぐわああああ、やられた」

遊びながら叫んでいた。


「あーくん、お着替え終わった?」

 渚さんの声が遠くから聞こえてくる。


「まだだよ、もう少し」

 答えながら本来の目的を思い出したのか、服を脱ぎ始めた。素早くパジャマを脱ぎ捨ててパンツ姿になったので、思わず目を背けて顔を手で押さえてしまう。


 その間に着替えを終えたのか、再びそちらに目をやったときには、その姿はもうなかった。


「ママー、お着替え終わったよ」

廊下の方で声が聞こえたので、ドアを少し開けて、そてそこから二人を見る。


「よし、じゃあ出かけようか」

「うん、行こう」

 そう言うと二人は玄関へと向かいそのまま外へと出て行った。

 

 それを見て追いかけるように私も付いていった――

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