幼馴染が世界を救う巫女に選ばれたらしい

七星

第1話 「不老不死! 不老不死!!」「落ち着きねえな」

 幼馴染が世界を救う巫女に選ばれたらしい。


「……は? や、待て、今なんつった?」

「だからー、もう! 世界を! 救う巫女に! 選ばれたの!」


 どうして俺が怒られているのだ。

 困惑しつつ、頬を蒸気させて喜んでいる彼女の話を聞く。


「一週間後、あんたの誕生日の前日に巫女になるの、私は! ほらこれ」


 ぴらりと見せられた政府からの嘆願書には、なるほど、幼馴染である満月みつきが五百年に一度復活する魔王に対抗するための巫女に選ばれたと書かれている。そのために不老不死になるとも。

 俺は遠慮なく顔をしかめた。


「マジかよ……お前不老不死になんの?」

「なるんです!」

「なんでそんな楽観的なんだよ……」


 自分と周りのときの流れ方が変わることに対して、不安も不満もなさそうだった。呆れるほど図太い精神だ。

 巫女、という存在は教科書で見たこともあるし知っているが、まさか今この瞬間に幼馴染がそれになるとは思わなかった。正しく「マジかよ……」としか言えない。


「あんたのこともちゃーんと救ってあげるから任しといてよ!」

「はいはい」


 ぽんっと頭を撫でると子供扱いすんな! と手を払われたが、俺にはやっぱり彼女は巫女でもなんでもない、俺の幼馴染にしか見えなかった。










「で、なんでこんなことになってんだよ……」


 ぱちりと視界の端で何かが爆ぜる。

 まだ火薬が残っていたのかとぼんやり思ったのと同時に、研究員らしき男に足首を掴まれた。


「待、て……」


 俺は目をすがめた。


 どん! という衝撃と共にすぐそばの壁が爆破され、男の上に瓦礫が降り注ぐ。男の悲鳴はやがて途切れ、手は自然と離れていった。

 ゆらゆらと危なっかしい足取りになっていることを自覚しつつ、俺は無機質なそれに向き直り、近づき、触れた。


「不老不死って、こういうことかよ……」


 掠れた声が出る。

 笑ってしまう。ここまで来るのに様々な資料を見つけたが、そのどれもに書かれていたのは、彼女を水晶に閉じ込める計画だった。

 彼女は知っていたのかもしれない。知っていて、だから最近頻繁に俺に遊ぼうと誘ってきたのかもしれない。


 気づかなかった自分を罵りたい。だから誰も巫女の姿を見たことがないのだ。魔王を復活させる一番の要因になると予言された人間は、こうやって水晶に閉じ込められるから。

 生まれ変わることも許されない、魂と身体を永遠に閉じ込める秘術。

 ああ、俺の父も、最愛の人をこうして失ったのだろうか。



 ゆらりともたげた顔の額を突き破って、怒りが角となって顕現する。俺は彼女の形に固まった水晶を抱きしめて、涙を零した。


 あと五分だ。


 あと五分で、俺は十八になる。完全な、魔王になれる。

 馬鹿な人間達だ。魔王は最愛の人を失った瞬間最も弱くなる。しかし、十八になるまでに殺さねばならない。五百年の間にそんなことも忘れたらしい。


満月みつき、待ってろよ……」


 馬鹿で愚かな人間達。

 あと五分で滅びる世界で、せいぜい最期まで笑っていろ。

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幼馴染が世界を救う巫女に選ばれたらしい 七星 @sichisei

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