蜘蛛の糸。

五色ヶ原たしぎ

君の愛になる。






 楚々そそたるこえ。朱い糸の先にぶら下がる子供。否。

 無数の糸の先に垂れ下がる子供たち。

 あなぐらの中を侵食する苔の緑と、お友達の揺れる影。

 きぃきぃと軋むブランコのメランコリィ。

 死んでも尚、遊び続ける者たちの中心で。


「あは」


 楚々たる聲。無数の糸を慈しむ女郎のように。否。

 捕えた獲物を誇らしく掲げる女郎蜘蛛のように。彼女。

 噎せ返る臭いと臭いの狭間に、骨と骨とを擦り合わせる音。

 からんからんと哭く下駄のノスタルジィ。

 夏の盛りに弾む脚は、きらめく好奇心で異界を踏みつけた。


「あは」


 ぞっとするほど大きな口から、

 み出したあの子がぎらぎらとぬめり、

 黄疸に塗れた食べ残しが、涎と共に土の上に吐き出された。

 ぞろり這い寄る暗闇のファンタジィ。

 あの子に群がる無数の影は、角砂糖にたかる蟻の群れに似ている。


 嗚呼。そうか。そうか。


 少年は理解を早めた。

 これは、子育てなのだ。

 例えるならば、親鳥が雛鳥に餌を与えるような。

 つまり、ボクは──彼女の愛として消費されるのだろう、と。


「あは」


 楚々たる聲に目を瞑ると、出掛けに聞いた祖父の険しい声を思い出した。


「涼をとるにしても、山はやめとけ。涼しいを通り越して、さぶうなるぞ」


 夏の盛りに弾む脚は、山中異界を踏みつけた。





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蜘蛛の糸。 五色ヶ原たしぎ @goshiki-tashigi

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