死神
ペーンネームはまだ無い
第01話:死神
「ふはははははっ、貴様の命は残り5分だ」
「……僕、死ぬの?」
「そうだ。もはや死を
「……は? カルロス? 違いますよ。僕、どうみても日本人ですよね?」
僕が答えると死神はひどく困った顔をする。
「人違いしてしまった。ヤバいな。もう5分で死ぬ呪いをかけてしまったのに、どうしよう」
「は? 困りますよ、何とかしてくださいよ」
「いいだろう。私の不手際だからな」
そう言うと死神は懐に手を入れて、紙きれを取り出した。
「では貴様には特別にこれをやろう」
「これがあれば助かるんですか? なんですか、これ?」
「野球の観戦チケットだ。洗剤もつけるから、どうか死を受けいれてくれぬか?」
「新聞勧誘レベルの交渉術ですね。そんなんで『あら、だったら死んでも良いかしら』なんて言いませんよ」
「……そう、なのか」
死神は心底驚いた顔をした後、「少しだけ時間をくれ」と言って黒い物体を取り出して耳にあてる。
「……もしもし、主任ですか? 死神です。ちょっとご相談したい事がありまして」
なるほど。上司に指示を仰ぐのか。
「……え? クビですか? いえ、それは困ります」
どうやら大変なことになっているらしい。死神の顔に
「はい……、はい……、判りました。そうします」
黒い物体を懐にしまって死神がこちらに向き直る。
「ふはははははっ、待たせたな、人間よ」
「それで、主任はなんて言ってました?」
「ビール券も渡せば何とかなる、と」
「何ともなりませんよ。アンタの上司もポンコツですね」
「……そう、なのか」
死神は心底驚いた顔をした後、「少しだけ時間をくれ」と言って、黒い物体を取り出して耳にあてる。
「……もしもし、母ちゃん? 死神だよ。ゴメン、俺、クビになるかも」
駄目だ、コイツ。すべてを諦めてクビになる気でいやがる。
僕は死神の肩に手を回すと、彼を励ます。
「まだ諦めるには早いですよ。一緒に僕が助かる方法を考えましょう」
「……そんなに優しくされたら惚れてしまうではないか」
何を血迷っているんだ、コイツ。
拳で思いきり顔面を殴打すると、死神が正気を取り戻す。
「今の一撃で良い案を思いついたぞ」
「聞かせてください」
「お前をサイボーグに改造しよう」
駄目だ、コイツ。さっきの一撃で本格的に壊れたらしい。
「現実的な話をしてください」
「じゃあ、プロレスラーになるとか?」
「お前の呪いは筋肉で防げるのか?」
「いや、死ぬ」
「よし、まずはお前が死のうか」
ふと、そこで気づく。腕時計を見て、一気に血の気が引く。
「時間がない。もう駄目だ」
頭を抱える僕を見て、死神が不思議そうな顔をする。
「話が長くなりそうなんで、寿命を1時間延長しておきましたよ」
「……カラオケ店レベルの気軽さですね」
僕の最後の5分は、まだまだ続くようです。
死神 ペーンネームはまだ無い @rice-steamer
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