お願いだから今日は異世界休ませてください

ちびまるフォイ

そんなに体調悪いの?

「あの、今日は異世界休んでいいですか?」


『それは困るよ。君はまだ新人の冒険者じゃないか。

 君がいる前提でこっちもクエスト受けちゃってるしさ』


「いや、ホント体調悪くて……。朝起きたら顔が真っ青で……。

 普通の食事も受け付けなくて……走れなくて、歩くのもやっとで……」


『声を聴く限り、そう辛そうには聞こえないけどなぁ』


「ホントなんですって!」


『なんにせよ、異世界来てくれる?

 君が本当にそこまでのヤバい状態か確かめられるし、

 大丈夫そうだったら、回せそうな仕事を君にさせるから』


「正気ですか!?」


『じゃ、早く来てねーー』


通信はそこで切れてしまった。

鏡に映る自分はもう人間とはいえないほど、顔つきが変わっている。

なんなら皮膚だって垂れ下がりそうになっている。


「こうなったら、診断書をもらうしかない。

 絶対安静だとお墨付きをもらえれば、大丈夫だろう」


いつもの数倍の時間をかけて病院へ向かった。

病院では自分と同じような状態の人たちがひしめいていた。


「ああ、この症状ですか」


「先生。このままじゃ俺こんな状態で働かせられるんです。

 診断書をもらえませんか?」


「それがこの病気、まだ解明できなくて……診断書も書きようがないんだよ」


「そんな!? テキトーでもいいから書いてくださいよ!

 俺がとにかくヤバいってことが、医者の診断でわかればいいんです!」


「症状を和らげる薬はありますが」


「そういうのはいらないです!!! 異世界に行かされるでしょ!!」


結局、診断書はもらえなかった。


異世界に行って、「ひかえおろーう!」などと

黄門様のように診断書をつきつけるはずが大失敗。


このままでは本当に異世界に連れていかれてしまう。行きたくない。


「そうだ。他の人に俺のヤバさを伝えてもらおう!」


自分とギルドマスターとの話し合いでは「行けない」「頑張れ」の応酬になるので、

ここは第三者に「あいつはヤバい」と遠回しに伝えてもらえれば

俺の証言の真実味がまして許されるはず。


さっそく今の自分の状態を異世界Tubeに投稿した。


想像通り、コメントは気遣ったり恐怖したりのコメントで埋め尽くされた。


完全に風向きは俺のほうへと流れているのがわかる。


「あ、ギルドマスターですか? 俺です」


『仮病君か。なにしてる、遅刻じゃないか』


「病院に行ったりしてまして……。それで、俺の状態を知ってもらおうかと

 さっきEsekaiメールにコメントを添付しました。見れますか?」 


通信の向こう側でなにか操作する音が聞こえる。


『ああ、確認した』


「コメントでねぎらったり、心配しているのが多いでしょう?

 これが世間の言葉です。一般的な見解です。町の声です」


『それで?』


「俺が休む理由には十分じゃないですか!」




『……よし、わかった』


しぶしぶといった感じの返答が返ってきた。

思わずガッツポーズをとった。


「それじゃ、休ませてもらいますね!!」


『それはできないな』


「えっ? わかったって言ったじゃないですか」


『わかった、とはいったが休んでいいとは言っていない』


「そんな横暴な!」


『さっき、女神に話をつけてきた。

 もうすぐ貴様はこっちに自動的に転送されるからな。

 安心しろ、どんな状態でもお前にさせる仕事は準備しているぞ。ハハハハ』


「や、やめっ……」


目の前に光の閃光がほとばしり、何も見えなくなった。

次に目を開いた時には異世界に強制転送されていた。


何もかも観念し、俺は死ぬ覚悟で働くと腹をくくった。



そして、ギルドマスターは俺の顔を見るなり叫んだ。



「お前、ゾンビになってるじゃないか!!

 や、やめろ! 来るんじゃない!! 感染するーー!!」



その後、ギルドにヒトはいなくなった。

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