夏のひとコマ、一瞬の内に咲く万感

ただ一文で語られる恋愛模様。説明もこれだけで終わっちゃうこの作品、感想は「趣深い」のひと言です。

ひねりも言葉遊びもなく、ただただ恋する誰かの心情や状況の“一瞬”を切り取ったこの一文が、すごく心を動かすんですよ。

ストレートな言葉づかいに詩的表現が絶妙に噛み合わさって演出されたワンカットには、そこへ至るまでの心情的な積み重ねもその後に続く情動的な展開もなくて、だからこそ純粋な一瞬として機能します。

たとえば本作から「夏、3」を取り上げてみますと、『僕は君が先輩のことを好きだと僕が気づいていないことに気づいたことに気がついた、夏祭り。』。なんだか思春期のめんどくさい男子の顔が見えてきたりしませんか? いや、もしかしたら一人称が僕の女子かもしれない、いやいや、実は実は……なんてふうに、想像をかき立てられるのですよね。

本当に短い中に叙情あふれる作品です。

(夏はサクサク! 短い4選!/文=髙橋 剛)