第1章 襲う夏
べっとりと汗をかき、気持ち悪い。
わたしの気持ちなどお構い無しにこれでもかってくらいに照りつける真夏の太陽。
少し苛立ちをおぼえて、乱暴に今までかぶっていたタオルケットを剥がす。
「けほっっ、んんっ…。」
幸い喘息の発作は免れたみたいだ。
重い瞼をなんとか持ち上げ、ベッドサイドに置かれた時計に目をやる。
…午前10時過ぎ。
きっと、美湖さんはとっくに起きて仕事中だろう。あぁ、しまった。いくら学校が休みとはいえ、寝すぎた。おまけに首が痛い。
さいあく…。
ベッドから降りる気になれずただ窓の外をうかがうばかり。
「なーにしてるのよ、わたし」
カーテンごしにガラスにうつる自身の相変わらずの仏頂面に向かって、ぽつりと一言。
あぁ、もうこのまま二度寝でもしようかな。
…なんて考えているわたしは自室の扉が開いていることに気がついていなかった。
「今、二度寝しようとしたでしょ?(笑)」
どこに笑いを誘う要素があったのか知らないけど、クスクスと笑みをこぼすこの人はまぎれもなくわたしの命の恩人だ。
名前は、枝村美湖(えだむらみこ)。わたしが彼女について知っていることは、仕事は絵をかくことで、年齢は二十四歳、好きな食べ物はピーナツバターをたっぷりつけたパン。整った顔立ちをしているが、飾った感じはなく、文句なしの美人さん。そして、何より家出をして途方に暮れていたわたしを拾ってくれた優しい人…。
そのくらいだ。なにしろ、一緒に暮らしはじめてまた三ヶ月半くらい。
「りか…?、茉莉花?ねぇってばー」
あ、ヤバい呼ばれているみたいだ。
「あ、はい。ごめんなさい、すぐに起きますね。」
そう言って、もそもそとベッドから降りる。
そうすると、美湖さんは、からからと笑いだした。
わたしは結構この笑い方が好きだったりする。
からからと、可愛らしく、優しい感じ。
サバサバしていて、一緒にいてリラックスできる。これがわたしが、美湖さんと暮らしてみて思った美湖さんの特徴。
もし、美湖さんが拾ってくれていなければわたしは今頃ホームレスかな?いや、きっと餓死していたに違いない。だから、美湖さんには感謝してもしきれないくらい感謝している。
「茉莉花?本当に大丈夫?私はゆっくりしててって言ったのだけどね(笑)」
「あ、いえ、起きます。それより今日は出かけようと思うのですが…」
私はゆっくりと立ち上がり、美湖さんの大きな瞳を捉えた。
開かれた扉の向こうからはピーナツバターの良い香りがした。
からからと まりか @vacation
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