ゆびきりの約束

子竜淳一

ゆびきりの約束

「夫はついこの間亡くなってしまったから会わせられなくて残念だわ」

「いいよいいよ、それはこれからの楽しみにしているから」

 少女は老婆の言葉に笑顔でそう答えた。

 少女と老婆が出会ったのはついさっきだ。

「それより私はどうしてこんなところに来たのかな?」

「さぁ、奇跡なんじゃないかしら」

 老婆が目を細めそうささやいた。

 少女は目が覚めた時に病室の前に立っていたらしい。

 その病室のネームプレートに自身と同じ名前が書いてあったのだ。

 「やっぱりおばあちゃんって未来の私なんだよね?」

 「そうね、あなたは昔の私だと思うわ」

 老婆は力強くそう答えた。

 少女は老婆の言葉を聞いて首をかしげる。

 「なぜタイムスリップしたのだろうかっていう顔をしているわね」

 「うん、そりゃ全く心当たりないし」

 開いている窓から心地のいい風が室内に吹いた。

 その風に髪をなびかせた老婆が懐かしむように首飾りを握りしめた。

 「……もしかしたらこのペンダントがあなたをここへ呼び寄せたのかもね」

 「ペンダント?」

 「ええ、これは、先日亡くなった夫からプロポーズの時にもらったものよ」

 「へぇー、指輪じゃないんだね」

 老婆はペンダントの後ろに彫ってあるイニシャルを指でなぞった。

 「……ちょうど今日は私が夫と出会った日だわ。あなたくらいの時にね」

 「私と同じ時くらいに……?」

 老婆は無言でうなずいた。

 「そして、今日は余命宣言された日。私にとって始まりであり終わりの日なの」

 「余命宣言!?」

 その姿からは今から亡くなるだなんて想像ができない。

 「でも死ぬ前にあなたと出会えてよかったわ。これでこの世に未練はないわ」

 「そんな、おばあちゃん! 死なないでよ!」

 少女は強く問いかける。

 それでも老婆は笑顔を崩さなかった。

 「泣かないで、あなたにはこれから楽しい未来が待ってるのだから」

 老婆は少女に向かって小指を突き出した。

 「ねぇ、ゆびきりしましょう」

 「なんで……?」

 少女は老婆に当然の疑問をぶつけた。

 「これからの新生活を全力で頑張るっていう約束よ。あなたは未来の夫に、私はあの世という新生活が始まるんだから」

 「約束……」

 老婆は微笑みながらも力強く少女の目を見つめる。

 そんな老婆の覚悟に少女も感化された。

 「わかった、約束するよ」

 少女は突き出された老婆の小指に自身の小指を絡めた。

 「これからあなたは未来の夫に出会い、大変なこともたくさんあると思うわ。それでもくじけずにがんばりなさい、あなたなら必ずやり遂げれるわ」 

 「ありがとう、おばあちゃん……」

 少女だけでなく老婆もゆびきりをしながら涙を流していた。

 老婆の涙がペンダントに落ちた瞬間、少女は光に包まれた。

「またね、おばあちゃん……」

「ええ、空から見守っているわ」

 少女が微笑んだ瞬間、彼女は過去へ、そして未来へと歩んだのだった……。



 

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