離れたくない
藤田大腸
離れたくない
あと五分で、愛するりなちゃんと離れ離れになってしまう。そんな現実を受け止めたくなかった。
「いや! いや! りなちゃんと離れたくない!」
涙を目に溜めて訴える私の頭を、りなちゃんは優しく撫でてくれた。
「泣かないで、もえちゃん」
そう言ってりなちゃんは自分の胸を私に貸してくれた。
りなちゃんの温もりが心地よい。尚更離れるのが辛くなってくる。
「私はこれから音楽の勉強をするために旅立つ。もえちゃんも頑張って美術の勉強をするんだよ」
「でも……」
「ほら、もう泣かないの。これが今生の別れじゃないんだから」
「りなちゃん……」
りなちゃんは私のアゴをくいっと持ち上げると、もう片方の手の親指で私の涙をそっと拭ってくれた。
そうだ、二度と会えないわけじゃないんだ。笑顔で気持ちよく送り出さなきゃ。
「私、いつでも帰りを待ってるからね」
私がにっこり笑うと。りなちゃんもにっこり笑った。ああ、また泣きそうになる。だめだだめだ、我慢しなきゃ。
「私が帰ってきたら、その時は私の似顔絵を描いて欲しいな」
「うん。りなちゃんも私に歌を聞かせてね」
「もえちゃん……」
「りなちゃん……」
どちらからともなく、私たちはひしと抱き合った。そしてりなちゃんはキスをしようと唇を近づけて……
「あのー……いい加減に芸術の授業の前に下手くそなコントをするのやめてくれるかなあ?」
学級委員長の園川さんがこめかみをひくつかせながら、キスをするすんでのところで私たちを引き剥がした。
「だってこれやらないと何だか調子出ないもん。ねーもえちゃん」
「ねー」
「そんなの知ったこっちゃないわ! さっさと行け!」
わー、園川さんがヒスを起こしたー! とからかいの言葉を投げかけて、私とりなちゃんは教室を飛び出した。
「んじゃね!」
私たちは軽く挨拶をして別れて、りなちゃんは音楽室へ、私は美術室に行きましたとさ。おしまい。
離れたくない 藤田大腸 @fdaicyou
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