第5話 月と亀
「はて、あれは、なんだったか」
大きな満月が煌めく帰り道、割烹料理店の店先の水鉢の前を通った。
大きな金魚と、小さな金魚。2匹の亀。
月光の下の仄暗い闇の中で、全てはひっそりとしている。もう、眠っているのだろうか。
立ち止まって見下ろしていると、黒い影が水底からゆるゆると伸び上がり、水の面に顔を出した。ぽかりと、花のつぼみのように、2本ある。
水の上に浮いていた亀が、のそりと浮草の上に這い上る。2匹の緑の亀は丸い浮草の上に登ると、首をぐいと伸ばして、ぱくんと黒いつぼみをそれぞれに飲み込んだ。
そうして、浮草の上でゆっくりと、満足そうに大きく瞬きをした。
左目に泳ぐ魚 中村ハル @halnakamura
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