りんご飴に目逸らし
細矢和葉
人の匂いに咽せながら
いつもよりずっと人の多い通りを急ぎ足で歩いて行く。すれ違う人の手に光る赤い赤いりんご飴。持て余すほどに甘くて、食べ切ることの方が少ないように思うのに。人の流れが滞るのは、慣れない下駄のせいだろう。
私はきっと、永遠にこの時間が続いて欲しいと願うたくさんの人の思いに巻き込まれてしまっただけだ。
ふと鼓膜がひどく揺さぶられて、一呼吸置いて歓声が聞こえた。それが花火だと気付くのには少し時間がかかったけれど、見上げた空にまた新しい花火が上がる。何故だか嫌に冷たく見えて、耳を塞ぎたくなった。
味気ない普段着で、勉強道具を背負って、私は何をしているんだろう。
悔しいくらいに家路が長くて、夜遅くまでの祭りには行けない。本当は私だって浴衣を着て、りんご飴にはしゃいで、手を繋いで、花火を見たいのに。
寂しいのはそれだけなら良かった。私が祭りに行けないせいで、予定をふいにしてしまった彼の人のことを考えてしまう。
バスが来るまであと十分。来年に着る浴衣の色を考えるだけの時間はある。
りんご飴に目逸らし 細矢和葉 @Neighbourhood
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