第2話 あの娘は綾波レイが好きではないけど淫乱少女1

「今日本当に人が来ないんだけど!もう泣きそうなんだけど……」

さっきからお姉ちゃんは狂ったようにこの言葉を電話口で繰り返していた。僕は心底どうでも良かったが、どうでもいい仕草をしたらすぐに怒られてしまうので、とりあえず

「そうだね、辛いよね」

といかにも可哀想だという感じを出して返事をする。怒り気味の女との会話は同調して、そうだねーと言いつつ時々それは酷いねと言ってれば大抵なんとかなる。

 あっ、お姉ちゃんと呼びはしたが、彼女は僕の実際のお姉ちゃんではない。僕はチャットアプリというものをやっているのだが、そこで話しかけた年上の男の人をお兄さん、年上の女の人をお姉さんと呼ぶ癖があった。今電話をしている彼女も、そのお姉さんのうちの一人だ。

 彼女と出会ったのは3ヶ月ほど前のことで、たまたま暇で話しかけたのがお姉ちゃんだった。お姉ちゃんは話し始めこそぶっきらぼうな返事ばかりで、ものすごく怖い人だなと思っていたが、一度気まぐれに電話をしてみるとそんなことは全然なく楽しい感じの人だった。

 僕は僕で、その時彼女に気に入られたようで、それからは毎晩のように彼女から電話がかかってくるようになったのだが、電話をするとどの時間にかけても人混みがざわざわと外にいるのだよね。それでどこにいるの?って聞くと池袋と決まって返ってくるのだった。

 神奈川に家があると言っていたし、流石にこれはおかしいだろうと思っていつも何をしているの?とある日思い切って聞いてみると、

「んー、お兄ちゃんにならまぁいいか。嫌いにならないでね?実は私円してるんだ」

なんて答えが返ってきた。はて、円とな?なんて風に疑問に思う純情で善良な皆さんのために一応説明するが、円とはつまり援助交際のことである。お金をもらってエッチな行為とかを対価として渡すあれである。そうなんです、僕のお姉ちゃんはとんでもない淫売女でした。

 これまた別のネット友達にこれ面白いよと言われて見せられた、援交ドキュメンタリーでこの街に援交少女が数多く溢れているのは知識として知っていたが、まさか自分の話相手がそうだと思っていなかった僕は当然驚いたよね。

 ずっと好きな人がいて、その人に告白したいけど、告白は小学校の頃一時間かけてした以来で、それからは感情を心の奥底に沈めた片思いばかり経験してたから全然恋愛経験ないし、好きな人と手も繋いだことないのにどうしようなんて話を聞いて、ほっこりして乙女だなぁと思った僕の純粋な気持ちを返して欲しい。

 世間の皆さん、あなたが純情で乙女だなぁと思っているあの娘も実はとんでもない淫乱で、今も不特定多数の誰かの腰の上に跨ってヨガっているかもしれませんよ。(電話が再度かかってきたので明日へ続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平凡日記 こたつみかん @stupidpig

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る