第4話{具現}


その日は気まずかったので、家に帰りしっかりと休み翌日から図書館に通い詰め、本の虫となることにした。

 図書館と言っても、俺の知っている図書館の規模などはるかに超えており、どこか異世界に飛ばされた気分だった。まあ、と言ってもすでにここが異世界なのだが・・・・

 図書館はもはや塔の様になっており、入ると一階には他の階から持ってきた本を読めるような休憩スペースがあり、二階から先に本が置いてあった。他の階への移動手段は二つあり、一つは転移装置の様なもので最上階までつながっており、魔力を流す事で使える。なれない身としては少々大変だったが、もう一つの手段のらせん階段よりかは圧倒的に疲れないので、ありがたく利用させてもらった。

 この世界の本はサイズがとても大きく、子供が両手で抱えなければならない程の大きさだった。それでも、運ぶ労力など気にならなくなるほど本の内容は面白かった。

 俺が中心的に読んだのはいわゆる物語小説で、元の世界のとは違って、実際に魔法がある世界だからこその臨場感や、逆に返って輝く剣技などあれから数年間呼んでいないのもあるだろうが、その世界観は俺を虜にするには十分であった。



それから俺は異世界の二次元に一カ月間浸り続けた。テイラとはギルドでたまに会っていたが、時期的に仕事が立て込んでいたようで、しばらくは手が離せなかったため、ちょうどタイミング的にも完璧だった。

 そして今日は久しぶりにテイラと合う事になっていた。今回もお馴染みのギルド本部集合になっており、今日はテイラの仕事が無いため朝一の時間帯である。

「お主久しぶりじゃな、こっちの生活にはだいぶ慣れたかの?」

「はい、と言ってもほとんど図書館から出てないので何とも言えませんが」

テイラは本当に忙しかったのだろう、いつも通りの調子で話しているが、薄らと目の下にくまができている。そう言えば、テイラの役職についてまだ聞けていなかったのでこの機に聞いておこう。

「そうか、それは良かった。まだ自分で生活する程まででは無いじゃろうか、他にもなにかあれば言ってくれ」

「はい、ありがとうございます。それで今日はなんでこんなに早くから集まったんですか?」

テイラの面倒くさがりな性格だ、なんの理由もなければこんなに早くから活動しないだろう。まあ、俺の{具現}についての調査だと思うが、他にもあるかもしれない。

「まあ、言わずも分かっていると思うがお主の{具現}の能力調査と、討伐クエストでの試験運転じゃ」

試験運転か、確かに性能や効果が分かった所で、戦闘向きなのかそれとも他の職業に向いているのかを判別をしなければ、今後自分で生活して行けなくなってしまう。そのためにこんなに早く集まったのなら理解できる。

だが、討伐クエストというのは普通のクエストとは違って、強力なモンスターを倒さなければならない。難易度によるが、ものによっては百人以上の冒険者で倒しに掛らなければならないものもある。そんなクエストにまだ一度も闘った事のない俺とテイラだけで行くのは最悪死ぬ可能性すら考えられる。

「はい、それについてはなんとなくは想像していたんですが、討伐クエストじゃなくてもいいのではないですか?」

たかが試験運転なのだ、わざわざ危険を冒さなくとも実力は測れるはずだ。

「確かにそうじゃ、じゃが普通のモンスターはどんな冒険者でも後に倒せるようになる。しかし、大型モンスターとなるとその数は一気に半分くらいとなる。さらにもっと上位モンスターともなるとほんの一握りじゃ。だからこそ今の時点でどれほどまで通用するかを見ておこうと思ったのじゃ」

テイラが言いたい事はこの一ヶ月間での知識で十分に分かる。だが、たった二人でそれに挑むのは無理だ。

「でも、もし俺の技が戦闘向きじゃなかった場合二人とも死んでしまう事もあり得なくはないんじゃないですか?」

アキトがそう言うと、テイラは目を細めて顔を寄せながら少し怒ったような顔を作った。

「お主、さてはわしが弱いと思っておるの?仮にも国のギルド長ともあろうものが、緊急時に冒険者と部下に丸投げして、逃げていたら話しにならんじゃろうが。少なくともこれから行くレベルのモンスターであれば問題はない。それと今のお主よりかは圧倒的に強いわ!」

ん?ギルド長??どういう事だ???そんな話一切してなかったじゃないか。しかも討伐クエストモンスターを一人で倒せるとなれば実力は相当になるだろう。余計に意味が分からない。

「テ・・・テイラ・・・・・どういう事?」

「言っておらんかったか?わしはこのギルド本部のギルド長、つまりこの国のギルド長じゃ。そして、一応

最上級モンスターの討伐クエストに参加できるくらいの腕はある」

つまりテイラはこの国の主戦力冒険者にして、総ギルド長というエリート中のエリートだという事になる。そう考えればステータスを作った時のお姉さんの反応も納得がいく。

「聞いてないよ。そろそろ聞こうかなとは思ってたけど。まさかギルド長って」

どうせテイラのことだ、別に言わなくても大丈夫であろうという独断と偏見により勝手にこっちが知っていると思い込んだのだろう。

「まあ、そう怒るでない、それ位で死にわせん。それよりもこれから初めての戦闘だというのにつまらなくなってしまうぞ」

こうなった原因である本人にそんなことを言われても、何も解決しないのだが・・・・・・

「そうですね、今回はあれですけど、これからは言った方がいいと思った事は言って下さいね」

ここでどうこう言った所でなにかが変わるわけではないから、この後のクエストに向けて切り替えよう。

「そうじゃな、お主は異世界人だから少し変わっておるし、気を付けてやるとしよう」

秋人は、どちらかというと変わってるのはテイラの方だと思ったが、恐らく本人の自覚が無いので、言わないでおくことにした。



そんな事をしている時間がもったいないので、俺とテイラは早速クエストへと来ていた。

だが、目の前にいるのは俺の想像していた生ぬるいものではなく、人間が相手に出来るとは到底考えられない大きさの巨大な熊だった。

「無理ゲーだろ、自殺すればと思ってたが、そんなのより前に殺されるって!」

どうせ大型モンスターと言っても、大きい動物程度だろうと思っていたが、そんな考えは甘かった。俺たちを目の前にした瞬間、ぎらぎらと殺気を放ち、今にも食い殺さんと襲いかかってきたのだった。

 だが、そんな化け物を相手に何とテイラは圧倒していた。なにも攻撃しているわけではない。ただ攻撃を防いでは受け流しているだけである。それなのに敵は体制を崩し、悪戦苦闘している。

 これを見ているだけでも、テイラがどれほど強いのかがうかがえる。

「お主何をしている!さっさと用意せんか」

「何をすればいいんですか?」

{具現}の用意をしろという事なのはなんとなく分かったが、それ以上に具体的な行動が分からない。

「言わんと分からんのか、この一カ月で読んだ物語の中で、一番想像しやすくて、なおかつ好きだと思える魔法や、剣技でもなんでもいいこいつを倒せる技を出来るだけ鮮明に思い浮かべろ」

「はい」

好きな技か・・・・魔法と剣伎を組み合わせて闘う冒険物語の主人公が使っていた技がカッコよかったな・・・・・確か、自分の持ってる剣に炎をまとわりつかせるようにするんだっけ?そもそも、炎ってどうやって出すの

「何をやっている早くせんか!」

やばい、テイラが怒ってる。もう細かいことは良いから、さっさと始めよう。

 まず、炎を出すには魔法だ。そのためには魔力が必要か・・・・・・そうだ、この間のステータスの時みたいに、体の中から魔力を剣に注ぐ様にすればいいのか。でも、ただ注ぐだけじゃ無理だろう・・・・・・炎をイメージしてゆっくりと魔力を注ぎまとわせるように・・・・・・・

 アキトは、目をつむり自分の中の魔力に意識を集中させる。そして、炎を意識して、剣に流し込む・・・・・・・すると、変化は劇的だった。今どうなっているのかは見えないが、自分の中からものすごい勢いで何かが剣に流れ込んでいき、次の瞬間ものすごい熱風が押し寄せた。

 恐る恐る目をあけると、俺が持っていた片手剣は炎を纏い火剣と化していた。

「うわまじか、本当に魔法って使えるんだな・・・・・・・」

思っていたよりも、はるかに簡単に魔法という未知の能力が使えた事に、かなり驚いた。

「お主集中せんかい、まだ完全ではないぞ!」

「はい」

アキトは再び想像力と集中力を高めていく・・・・・・今度は敵の元まで一気に駆け抜け、そして、斬ると同時に魔力を最大限まで高め、燃やしつくす。

 さっきとは違って、自分に魔力を使わなければ素早く動くことが出来ないし、大量の魔力を一瞬で炎に変えなければならない。

 集中しろ・・・・・・もっと・・・もっと・・・想像しろ敵を倒す瞬間を・・・・・・・

 アキトは、これまでに生きてきた中で最も集中しているのではないのかと思う。そして、ついにその時が来た。

 体にものすごい力がみなぎったかと思うと、一瞬で目の前に敵が現れ反射的に剣を振り抜き大量の魔力の炎を放った。

 敵に肉薄する際に、珍しくテイラが驚いた顔が見えたが、それを意識する前に、すでに敵の後ろまで切り抜けていた。

ゴォッ!それに気が付いた直後、再び熱風が押し寄せ、振り返ると敵に横一文字の線が入り、爆散した。

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読書神話 加神 和也 @kurata

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