第3話アビリティー

翌日、秋人はテイラに言われた通りギルド本部にいた。午前中はテイラの仕事があったので、今はすでにお昼を過ぎている。

昨日のうちに、しばらくの生活費としてギルド側からの援助ろ言う事でお金をもらっていたので、朝食と昼食は近くのお店で済ませてきた。

他の世界の食べ物は初めてだったので、一抹の不安を覚えたが、味付けは質素なものの、素材の味が引き立てられていて、どの料理もとても美味しかった。

そんな事で、昼ごはんを思い出しているとちょうどテイラが帰ってきた。

「またせたな秋人、今日呼んだのは他でもない、お主のステータスを作りに行くのじゃ」

テイラは帰ってくるなりかい口一番にそんな事を言った。昨日の説明でいかにステータスが大切かが分かったので、そんなところだろうと思っていたが、ここまで早いとは考えていなかった。

「昨日の今日でもう作るんですか?」

他にもまだ細かい事は分かっていないので、それの説明を優先するべきだと思ったが、テイラにもなにかの考えがあってのことなのだろう。

「そうじゃ、昨日最初に言ったであろう、わしは面倒くさいことが嫌いなのだ。だから、順序などどうでもよいのじゃ。それ、行くぞ」

俺の予想とは全く違う斜め上の方向の回答を返したテイラは、何も気にせずに奥へと歩いて行ってしまった。思い返せば意識が朦朧としていたのではっきりとは覚えていないが、そんなことを言っていたかもしれない。まあ、そうでなくてもテイラの性格なら言いそうだが・・・・・

「は、はい」

アキトは返事をするとテイラを追いかけて奥の部屋へ歩き始めた。



しばらく、ギルド内をテイラに付いて歩くと、受付の様な所に着いた。いくつかの窓口があって、それぞれにギルド職員と思われる女性が立っている。

 俺たちはその内の一つに歩いて行き、テイラが窓口の女性に話しかけた。

「そこの女、こやつのステータスを作りたい準備してくれるか?」

テイラは普通に話しかけていたのだが、女性の方はテイラに気が付くとい一瞬で顔が真っ青になり平常心を失っていった。

「あ・・・あの・・・テ・・・テイラ様、ステータスの・・・作成ですか?」

テイラ様?テイラと職員の関係は分からないが、もしかしたらテイラはギルドのお偉いさんの一人なのかもしれない。それなら、なぜ俺の事を下っ端に任せないのかが分からないが、あとで聞いてみよう。


「そうじゃ、今すぐに作りたい出来るか?」

テイラは特に気にした様子はなく話を進めて行くが、相手の女性は全身汗まみれで、今にも倒れるのではないかと思ってしまう。テイラ本人が無自覚なのだから仕方がないが、普通に考えて突然上司が訪ねてきたらそうなるだろう。

「は・・・はいただいま。・・・・・・あの・・・テイラ様・・・なぜ直々にここに来られたのでしょうか?よろしければ教えていただけませんか?」

「ああ、あ奴はちょっと訳ありでな、今までにないケースじゃからわしが担当しようかと思っていたんじゃ」

まあ、確かに訳ありと言えば訳ありだ。異世界から来た人間の担当を下っ端にやらせて、もし何かが起きた時に収集が付かなくなるかもしれない。そう考えるとテイラは正しい判断をしている。

「訳あり・・・ですか。わ・・・分かりました・・・ありがとうございます。それと準備が出来ました」

女性は挙動不審になりながらも何とか準備を終えた様で、その旨を何とかテイラに伝えた。

 そこに置かれていたのは何の変哲もない長方形の紙と、水晶がはめ込まれたペンだった。

「そうか、ご苦労だった。おい秋人そのペンを持って魔力を流し込んでみろ」

「魔力を流すってどうやってやるんですか?」

テイラは当たり前のことのように言ってのけるが、昨日この世界に来た身としては、魔力という者になじみがないので、流せと言われて出来るようなことではない。

「そうか、そうじゃったな、お主にはまだ難しいかもしれぬの。体の中からエネルギーをペンに注ぐ様なイメージじゃ」

そんな曖昧な説明を受けた所で、出来るかどうかは分からないがとりあえずやれるだけはやってみよう。

 アキトはペンを握り、紙の上に手を置き、言われた通りペンに意識を集中させていく。すると、ペンの上部にはめ込まれている水晶があわく光、勝手に紙に文字を書き始めた。

「上手くいったようじゃな、初めてにしては上出来よ、お主中々筋があるかも知れぬの」

「そうですか?才能はあって困るものじゃないのでいいですが」

「ふふ、そうじゃな」

そんな風に話している間にも紙には次々と文字が書き込まれていき、一分程すると光が消え元の状態に戻った。

 紙にはLvとアビリティーの欄があり、もちろんLVは一になっていて、アビリティーの欄には{具現}と書かれていた。

「ほう、完成したようじゃな。どれどれ・・・・・・これは、見た事のないアビリティーじゃ。まあ、お主事態がイレギュラーじゃしあながち間違いではないか。まあ、これについてはまた調べるとしよう」

テイラは興味深そうにステータスカードを見た後そうつぶやくと、窓口の女性に礼を言い、俺に近くの机に座るように促した。

 案の定女性は礼を言われた事で、また挙動不審になっていたがそれについてはいいとして、やっぱりこのアビリティーは何か特殊なのだろうか?テイラも見た事が無いと言っていたので、新種である事に間違いは無いと思うが、効果が分からなければどの職業に着くにしろ、不便で仕方がない。

「予想とかでもいいので、この{具現}についての意見を聞いてもいいですか?」

「そうじゃな、{具現}というほどじゃからなにか思った事なども現実にするのだろう。でもそれだけではあまりにも強すぎる。恐らくだが発動時に何らかの条件が必要になってくると考えるのが妥当な線じゃろう」

確かにそうだ。なにかを具現化する所までは予想が出来たが、それではチートすぎる。そうなれば必然的に制限がかかると考えられる。

 それを一瞬で見抜くなんて、テイラは案外すごいかもしれない。会話を重ねるごとにテイラの見方が変わっていく。

「なるほど、他にはありますか?」

俺では思いつかない意見が聞けるかもしれない。出来れば今考えている全てを聞いておきたくらいだ。

「そうじゃな、アビリティー事態についてはそれくらいじゃが、{具現}を使う上で知識と想像力は必ず必要になってくるだろう。だから、お主はこれからしばらく読書にでも耽るがよい」

読書か・・・・・もう何年もしていないな、昔はあんなに大好きだったのに、その日からずっと俺は止まったままだったかもしれない。だけど、俺が本を読む事が許されるのだろうか・・・・・・

「なんじゃ、難しい顔をしよってなにかあったか?」

「いや、そういう訳ではないんですが過去のちょっとしたトラウマと言いますか・・・」

そう、あの日以来俺は一切読書もしなくなったし、人とかかわる事も極力避けてきた。それもそのはずだ、だった俺のせいで姉さんは・・・・・・

「ふん、くだらんそんな事でウジウジしておったら、また同じ事が起きるぞ。お主はそれを乗り越える為に今生きているのだと思うぞ。考えてみろ、お前の大切に思っている人はそんな姿を見たいと思うか?」

テイラの言うと通りだ何も間違っていない、でもそんな簡単な事じゃないんだよ。

「わかった様な事を言わないでくれ、あんたが俺の何を知ってる!」

心の中で次々と生まれる怒りを抑えきれず俺はテイラに怒鳴った。

いつでもそうだった、周りにいた人間は全員ただ憐れみと同情を向け、次第に当座勝って行った。結局何処にいても心からの理解は得られない。

「悪かった、確かにわしはお主の事を何も分かってはいない。じゃが、秋人その怒りの矛先を間違った方向に向けるでないぞ」

テイラは怒るでもなく呆れるでもなく、ただ淡々とそれだけを告げた。まるで、俺の沸騰しきった感情に冷水をかけるかのように。

 テイラの言葉によりゆっくりと理性が戻り、さっきまでの怒りが徐々に収まっていく。それにつれ、自分のテイラへの態度がどれほどのものだったのかを理解する。

「すいません、こんなつもりじゃ・・・・・・」

時間がたつにつれ怒鳴りつけた自分への罪悪感と羞恥心がましていく。テイラはただ気を使ってくれただけにもかかわらず、勝手に過去を思い出し一人で怒っていた自分が許せなくなっていく。

「よい、そんな時もある。過去に何があったかは知らぬが、人に話す事が無かったのじゃろ?またなにかあればわしが聞いてやる」

「すいません」

まだ、自分への怒りは収まらないが、今はテイラの言葉がただただありがたかった。思い返せば、こうして過去のことを他人に話した事は無かったかもしれない。怒りもあるが、何年も溜まっていたものを少し吐き出したせいか、心は思いのほかすっきりとしていた。

「もうよい、それより図書館の場所を教えてやるから、しばらくはそこで常識と知識をまなんでこい、お主は何処か幼く見えるからな。本当に今の事はもう気にするでないぞ」

 そうだな、もうあっちの世界とは関係ないんだ。どんな感覚かは忘れてしまったが久しぶりに本に溺れよう。

「ありがとうございます」


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