MY ANGEL
桜が咲き始めた頃。
俺は高校を卒業し、これから新たな生活に向けて新生活への準備をしている。
新たな職場があるのは隣町の中心部。
立地的にはなかなかの価格がしそうで俺じゃあ到底買えることできない土地。
そこに会社を建てる恩師はやっぱり凄い!っとしか言えない。
だけど、やっぱり心残りなんだよな。あいつのことだけが心残り。
高校生のうちに解決しておきたかった問題だけどそれが叶うことは無かった。
最近はよくテレビとかで見るようになったんだよな。
前は雑誌だけで見かける機会が少なかったけど。
今や、世間から注目されるほどに成長してるし、大女優の卵なんて言われてるくらいで。それにその子が俺の元カノなんていう嘘みたいな事実まで引っ提げてな。
それにしても、デビューまでが意外と早かったよな。
普通の女優がどの位のスピードでデビューするのかは知らないけど、それでも読者モデルから始まって二年と少しなのかな。
この前はCMで見たり、今は連ドラのサブヒロインやったりとかなり忙しそうで。
モデルだけじゃなく、役者の道にまで進むとは思ってもいなかった。
それに今やトップと言っても過言ではないレベルで注目の的になってたり。
なんでも、有名私立大学の受験勉強しながらここまでのステータスを築いた彼女を世間は大きく評価しているとかで。
元々頭は良かったし、なんでもそつなくこなすと言うのが俺のイメージだった。
けど、今は何でも全力で丁寧にこなすっていうイメージに変わりつつある。
いつの間にか雲の上の存在になってた彼女。
まさか、超身近な人からこんな超有名人が誕生するなんてな。
「人生って何が起こるか分からない、だから楽しい」
この言葉が俺の恩師が与えてくれた言葉の一つだったり。
そういや、この前こんな噂を聞いてしまったんだよなー。
『新川柑那が人気俳優のKと付き合ってる』
なんていう、俺からしたらショッキングなニュース。
俺は数多くのファンの中の一人として彼女を見てる存在だから、その情報を聞いても前みたいに引きこもったりとか、やさぐれたりとかはなかったけどな。
まあ、それが運命ってやつ?平凡に楽しく生きようとしている会社員の一人としてこんなことにいちいち動じてたら、これから家族持った時なんかは大変だからな。
だから、この件に関しては終わりっ!そして、俺は俺の人生を送ることにするよ。
♦
約四年前の夏。俺と彼女はここで新たなスタートを切った。
俺の恋人としての彼女は元気で明るくて、キモいって俺に向けて言いながらも笑顔で嬉しそうに笑うし、ラベンダーの芳香剤ばかり使うし。
皆は知っているだろうか?ラベンダーの花言葉は「不信」。
だから、あんなに告白を断ったのかな?俺を信じられなくてっていう理由で。
しかし、それは彼女の性格上あり得ない。長く付き合いがあるやつを信じないような人ではないことは今思い返しても明らかだからだ。
そんなことを思い返してゆくうちにいつの間にか俺の身体は真っ赤な夕陽に照らされていた。
瀬戸内海を前にたたずむ俺は、見事に平凡な人生を歩んでいることを象徴しているかのよう。
実際、俺は平凡に生きることに恥ずかしさとかはなく、こういう生活もありだと思っている。
今日は明日引っ越しする俺が最後に訪れるかもしれないこの場所を見納めに来た。
隣町から通勤してもいいのだが交通費が高いということでの決断。
ここに戻ってくるのはせいぜい休日か緊急の用事か。
それ以外の時は向こうで生活するつもりにしている。
しかし、今日はポカポカした陽気に照らされてゆっくり過ごしたものだ。
こんな自堕落――といっても明日から完全な社会人だが、この生活を見た彼女は何と言ってくるだろうか?
「付き合ってください…………か」
自然と口に出てしまった懐かしいあの言葉。
「いやよ」
今にも聞こえてきそうな拒否の声。
「ほんとに付き合ってください」
もう一度お願いしたあの言葉。
「私のどこがいいの?」
自分の長所を言ってほしい女の子の我儘。
「じゃあ、君のその笑顔とか、くびれのラインが水泳の授業中でしか見たことなかったけど綺麗な所とか、唇の柔らかさとか、白い滑らかな肌とか、見違えるほどに成長した胸とか、へそ出しの衣装でしか確認できない腹筋の縦の筋とか……」
言っても言っても静止されることのない彼女の長所は永遠に続きそう。
永遠に続きそうなだけであっていつかは終わりが来る。
「……瞳の綺麗さとか、手の指の細さとか、
聞こえそうで聞こえない彼女の嬉しそうに叫ぶ。
「「キモいよっ!」」
誰かが、俺と一緒に「キモいよ」って言った気がした。俺と同じく嬉しそうに。
その声は女性で、若さと活発さが有り余るよく通りそうな声色。
なんかのドラマに出ていたような、なんかのCMに出ていたような有名人の声。
まさか。今日はどこかの特番で生放送だからいないはずのあの人が?
まさか。別れる日まで自分の引っ越しを隠していたあの女の子が?
まさか。俺をこの場で何回も振ってもてあそんでいたあいつが?
まさか。今言った三点を揃えている女の子が後ろにいるとか?
おそるおそる、俺は後ろを振り返ってみる。静かに慎重に。
いなかった時のがっかり感を抑えるために本当にゆっくりと。
そこには本来ないはずの影が一つ。
そこには絶対いないと思っていた影が一つ。
そして、今日という偶然が仕組まれていたみたいにそこに立つ女性が一人。
「さっきのは私の長所?それともバカにしてたり?」
二年前を最後に聞いていなかった彼女の生音声。
「今日の服、香ってみる?ちゃんとあの香りがするよ」
風下だからわかる彼女の匂い。
潮風の匂いに負けないくらい強い花の香り。
「じゃあ、ラベンダーのもう一つの花言葉。言ってみようか?」
ああ、知ってる。以前調べた時に見たことがある。
たくさんある中の彼女が言いたいのは多分アレ。
言いたいことを頭の先頭に置き、俺たちは息を整え一斉に口に出した。
「「許しあう愛」」
平凡を彩る新たな生活の装飾品が堂々と俺の目の前に現れたこの日。
俺たちは今日からリスタートする。
モデルになった君へ。 街宮聖羅 @Speed-zero26
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