机の上の上野さん!

親愛なる隣人

『ラブレター』

 この中学校に入学をしてから早三ヶ月、学校にも段々と慣れてきた頃だけど、そんな僕には最近どうしても気になっていることがある。それは僕の隣の席である上野さんの事……。


           ●


 今日も上野さんは平常運転。何やら今日は机の上で誰かに向けた手紙を綴っているらしい。


「ねえねえ、上野さん」


「どうしたの? 佐藤君」


「その手紙は何?」


「うーん……ラブレター、かな」


「ふう~ん…」

 

 ……へ?


「らららららラブレターぁ!?」


 し、しまった!


 僕の言葉を聞いて上野さんがニヤリと微笑んだのが見えた。


「あれれー?  佐藤君はどうしてそんな驚いてるの?」


「べ、別に驚いて何か無いよ! ……ただそのちょっと気になるかなぁ…なんて」


「何が気になるの?」


 上野さんはまたニヤニヤと笑う。


「そ、そのラブレターの事……だよ」


 くそ! これじゃあ完全に上野さんのペースじゃないか。


 ていうか、何で僕はこんな手紙なんか気になってんだよ。


「そんなに知りたいの? 」


「まぁ……ね」


「じゃあ教えてあげる」


 そのまま、上野さんは手紙を丁寧に折り畳んで仕舞った。……ん?  仕舞った?


「ちょっと上野さん! 手紙見せてほしいんだけど」


「じゃあゲームで勝てたら見せてあげるよ」


「ゲーム?」


           ●


 上野さんから提案されたゲームとはただのジャンケンだった。


「良いよ。じゃあやろうか上野さん」


 ククク……。残念ながらこの勝負は公平じゃないんだよ上野さん。僕は君の唯一の弱点がある事を知っているんだ。


 君がジャンケンするときにいつも最初はチョキを出すという事をねっ!


「じゃあいくよー」


「「ジャーンケーン……ポン! 」」


 結果は僕がグーで上野さんがチョキ。ということは、


「勝ったぁー!!」


「あちゃー、負けちゃったかー」


「良し! これは僕の勝ちだね、上野さん。約束通り手紙は見せてもらうからね! 」


 やったやった! 予想通りやっぱり上野さんはチョキを出した!


「仕方ないなぁ、……私のラブレター、誰にも言っちゃダメだよ?」


「ゆ、言わないよ!」


 だ、大体男友達のいない上野さんに好きな人がいるのかすら怪しいよ。……でも、本当にいたら誰何だろうな…。


 もしかしたら……もしかしたらだけど僕って事もあるのかな?


「どうしたの? 見ないの?」


「え? み、見るよ!」


 僕がもたもたしていたせいか、上野さん上目遣いで覗き込んできたのが見えた。


 僕はさっきから何を考えてるんだ! 大体、上野さんの好きな人なんか誰だって良いじゃないか! こんな手紙とっとと見てしまおう。


 何でか分からないけど僕はそこから半ばヤケクソになって手紙を開いた。



あなたがこれを見ているという事はもしかして

なにかの勝負で私が佐藤君に負けたのかな?

たぶんジャンケンしたのかな。だってあなた

が私の唯一の弱点(だと思っている)チョキをだ

すということを知っている筈だからね。つまり

きみは私にまんまと騙されたって事だ!



 ………へ?  何だ、これ。


「ちょ、ちょっと上野さん! これラブレターじゃないじゃん!」


 僕がそう反応したとき上野さんは待ってましたと言わんばかりの満面の笑顔を見せた。


「上野さん、まさか!!」


「ドッキリ…大成功っ!」


 や、…やられたぁぁぁーーーー!!!!!


「もしかして、最初からここまで読んでたの!?」


「あはははは! もうバレないかヒヤヒヤしたよー。まさかここまですんなり行くとわねー」


 く、くそぉ! とんだ恥さらしじゃないか!


「そ、そうだ! 僕今日用事があるんだったよ。じゃ、じゃねー上野さん!」


 そうして僕は恥ずかしさのあまりそそくさと家に帰った。



 家に帰ると、僕はそのままベッドに寝転がって枕に顔を埋めた。


「ラブレターじゃなくて、良かったな」


 ……って、僕はなに一人で呟いてるんだ! べ、別に上野さんが誰に書こうと関係無いじゃないかっ!



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●



 ………佐藤君にドッキリを仕掛けると思いの外上手くいってしまって、佐藤君は頬を真っ赤に染めながら帰ってしまった。


 ちょっとやり過ぎたかな? ……でも、ドッキリを知った時の佐藤君、ちょっと可愛かったな。


 私は少し反省しつつも机の上に置かれたあの手紙をもう一度見る。


「今回もダメだったなぁ」


 実は私は佐藤君に対してドッキリを仕掛けていたのだ。それは、手紙に綴られた左端の縦一列。所謂、『縦読み』のドッキリ。



 だけど、やっぱり佐藤君は気付かなかったらしい。


 まぁそんな鈍感な所も含めて私は、佐藤君のこと


「好き、なんだけどなぁ」


 今度はどんな告白をしよう。どんな告白で気付いてくれるんだろう。


 それで、もし佐藤君が気付いてくれた時は、喜ぶかな? それとも困っちゃうかな?  それはちょっと嫌だな……。


 ……でも、もしも、ちょっとでも喜んでくれるなら嬉しいな。



                 おわり。

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