暗くて狭い、閉ざされた部屋の中で

無月弟(無月蒼)

暗くて狭い、閉ざされた部屋の中で

 辺りは一筋の光も無い漆黒の闇。体を動かそうにも、狭すぎてろくに身動きがとれない。

 そんな暗くて狭い部屋の中に、俺はずっと閉じ込められていた。


 いったいいつから、ここいただろうか?朝か夜かも分からないこの部屋では、時間を知る術など無い。


 誰か助けを呼ぼうにも、不思議と声を出すこともできない。くそっ、いったい俺が何をしたって言うんだ?


 悪い事などしていないのに、どうしてこんな目に遭わなきゃならない?

 そう言えば少し前は川に落とされて、そのまま流されもしたっけ。あの時は死ぬかと思ったなあ。


 ……よし、嫌なことを思い出すのは止めだ。それよりも、ここから出る方法を考えないと。


 神経を研ぎ澄ませて、外の様子を窺う。するとなにやら、しわがれた声が聞こえてきた。


「準備はできたか?」

「バッチリだよ。ひひひっ、それじゃあ早速……」


 ……長らくこの部屋にいたせいか、俺は閉じ込められていても、外の様子を『感じる』ことができるようになっていた。

 だからこそ戦慄している。何故なら刃物を持った老婆が薄笑いを浮かべながら、こっちへ歩いて来てるのだから。


 おい、その刃物でいったい何をする気だ!?


 止めろ!止めてください!お願いします!

 許して!助けて!殺さないで!どうか、どうか命ばかりは……


 だけど、やっぱり声は出なくて。死の足音は一歩一歩近づいて来る。


 嫌だ、死にたくない。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!


 恐怖のあまり、涙が頬を伝う。だけどやっぱり声は出なくて、体は動かなくて。

 最後の時を、ただ待つことしかできなかった。


 そしていよいよ老婆が持っていた刃が、俺に向かって向かって振り下ろされた……


























 オギャー、オギャー!


「あれま爺さん!桃を切ったら男の子が出てきたよ!?」

「こいつは驚いた!この子は桃太郎と名付けて、ワシ等で育てよう!」


 生き……てる?そうか、俺は今、産まれたのか。

 死ぬのではなく、産まれたんだ。

 部屋……いや、桃の中にいた最後の5分は、恐怖しか感じなかったなあ。

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暗くて狭い、閉ざされた部屋の中で 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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