洒落た各話タイトル、重いテーマを扱いながらさらりと読める口当たり、過不足のない表現。
誤字ひとつ見つからない、言葉との丁寧な関わり。
一話読んだだけで実力派の書き手さんであることがわかります。
「重い病気の姉」を描くにあたり、ウェッティな感情を出しすぎず、ほどほどに現実的なところも大変好感触でした。
恋人との軽妙なやりとりの描写や、SNSという現代的なモチーフの取り扱いが卓抜で、読者と物語との距離をうんと縮めてくれます。
伏線かな?と思われた部分が特に回収されなかったりして、でもそれが物語をリアリティーあるものにしていたりして、生身の人間たちが動いている空気感を濃く感じました。
タイトルの「サッちゃん」は姉の幸子のこと――ではあるのですが、童謡のサッちゃんのようにバナナ、つまり与えられた幸福を半分しか食べられないのは冴子の方なのではないか。
シンプルなタイトルの深淵に想いを馳せると、胸がいっぱいになります。
カクヨムでこんなに積極的にレビューを書きたい気持ちになったのは初めてです。
わたしが探していたのは、こういう書き手さんでした。