何かお伝えしたいことがありましたら承ります。

大臣

最後を迎えた者、これから始まる者

「以上でよろしいでしょうか?」


 俺の目の前に立つ少女はそう言う。


 こんな戦地には相応しくない小洒落た青いドレスに、金髪の少女を目の前にしても、俺は特には動揺していない。


 さっき腹に弾を受けた。もう長くはない。


 なら、最後に希望を残してもいいだろ?


「ああ、頼んだよ」


 そう言って、男は事切れた。


 砲弾飛び交うなか、少女は一人呟く。


「あなたの思い、必ず伝えます」


 少女がいた場所に砲弾が当たるのと、その姿が消えるのはほぼ同時だった。


 ————————————————————


 雨音に紛れて、チャイムの音が聞こえる。


「はい」


 私は玄関に向かい、ドアを開ける。


 そこには、知らない少女がいた。現代に不釣り合いなドレスを着た少女。


「お初にお目にかかります。エリカ・ローゼ様でしょうか」


「ええ」


「ダン・ローゼ様より伝言を預かっております」


「ダンから?あの人は今戦争に……」


「エリカ様、ダン様はお亡くなりになりました」


「何ですって!?嘘に決まってるわ!」


「本当です。ダン様よりお預かりしているものがあります」


 そう言って少女は、ポケットから何かを取り出した。


 それは、私が彼にプレゼントした懐中時計だった。


「……本当なのね……」


「はい。残念ながら」


 少女はさらに、ポケットからボイスレコーダーを取り出し、


「こちらに伝言が入っております。では、失礼します」


「待って!あなたはなんなのよ!」


 すでにこちらに背を向けていた少女は、そのまま言う。


「私達は伝言屋。伝えることしかできない、無力な存在です……それでは」


 少女は今度こそ去った。


「ダン……」


 部屋に戻った私は、ボイスレコーダーを起動した。


「では、伝言をお願いします」


 あの少女の声に促され、ダンの声が流れはじめた。


「エリカ?これを聞いてるってことは、俺はもう死んだのかな。残り少ないこの時間で、君に伝えれることは少ない。だから、本当は自分でやりたかったことをやるよ……。俺の部屋、入って右の、上から3段目の抽斗を開けてみて」


 ボイスレコーダーを止めて、私は彼の部屋な入り、抽斗を開けた。


「何これ……」


 私は衝撃でボイスレコーダーを落とした。その時の衝撃で、レコーダーが再び再生された。


「誕生日おめでとう!それから、愛してる!」


 私の誕生石のトパーズの指輪が、そこにはあった。


 そこで再生は終わった。


「自分で渡しなさいよ……バカっ……」


 そのまま私は指輪を握りしめて崩れ落ち、泣いていた。


 でも、泣くのはこれで最後にしよう。


 トパーズには希望の意味があるのだから。


 いつのまにか雨は止み、陽の光が差していた。


 たった5分間ほどの出来事だったけれど、これは私が忘れてはいけないことだと思った。


 ——そして


 私に伝言してくれたあの子に、幸運を……。

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