まつり

みヰデラ

第1話

「ウィッス、ウィ〜〜ッス」

大きな音が街の暗闇に響き渡る。人の声なのか動物の鳴き声なのかさえもわからない。なにせ、もう3時間もなっているのだ。明らかに異常。俺の冴えない頭でもそれくらいはわかる。

「もう2時だぞ。」

そう言いつつ、となりの部屋で寝ていた親父が眉をひそめながら襖を開けた。俺に言われてもどうしようもないだろうが。

親父はこういう時自分では行動しない。必ず他の人間に任せるのだ。あいにく今家には俺しかいない。

「分かったよ、行けば良いんだろう。親父はもう寝とけよ。明日早いんだろう?」

俺はジャンパーを羽織ると自転車にまたがった。家の道路の反対側のの街灯が切れかかってチカチカと音を出している。

「ウィッス、ウィ〜〜ッス」

音はまだ止まない。ため息をつきつつスマホで音のなる方向のマップを見た。

「川よ」

背後の声にビクゥッとなって振り返るととなりの家のヒトミがいた。余談だがヒトミは園児のくせにキャバクラを経営している。

「園児のくせに何してんだよ。」

俺は声を張り上げた。驚いて叫んだのを隠すため慌てて2時半を指す時計を突き出す。

「園児じゃないわ、じゅーくーじょーよ!それにキャバクラは夜に経営するものよ。バカも大概にしなさいよね。」

自称熟女のヒトミは園児と言われると怒るのだ。まぁ突っ込んだら負けってやつ。

「そんなことより川ってなんだよ。」

重要な単語を思い出す。あまりにも非常識な奴が言うものだから忘れかけていた。危ない危ない。

「私の職場の仲間が川で遊んでるのよ。3年に一回の祭りのようなものなの。」

ヒトミが当たり前のことのように話すわけのわからない話を目を点にして聞いていると、ヒトミが大きな息を吐きつつ言った。

「付いて来なさい。百聞は一見にしかずってやつよ。」

こいつが絡むとことん面倒臭くなる。そんなことはわかっているが気になるものは気になるのだ。

「ウィッス、ウィ〜〜ッス」

未知の音が俺を誘っている。どういう祭りをしたらこんな音が出るんだバカ。どうせ家に帰っても気になって眠れないだろう。

「親父に見てくるって言っちゃったからな。」

自分に向けたセリフをヒトミに吐きつつ俺は点滅する街灯を背後に自転車を押し始めた。

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まつり みヰデラ @zkr112

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