キモチ、伝えて

無月兄

第1話

 あと5分も歩けば、私は家に帰り着く。着いてしまう。

 焦りながら隣を見ると、そこにあるのは暢気そうに歩く幸助の姿だ。


 幸助。私の幼馴染み。家は隣で学校も同じ。小さい頃からずっと一緒で、ずっと友達。そして、ずっと好きな人。


 その幸助に、私は今日告白する。友達でなく、恋人になるんだ。

 そう決めたのに、そのためにこうして、学校が終わった後一緒に帰ってるって言うのに―――


「あのさ、幸助……」

「なに?」

「えっと、その……最近暑いよね。部屋の中だとずっとエアコンつけてなきゃ死んじゃうくらい」


 だぁー、何を言ってるんだ私は。

 これだ。学校を出てから今まで、口を開けば出てくるのはこんなくだらないことばかりだ。

 幸助はそうだなと答えただけで、私の真意にはちっとも気づいていない。当たり前か、これで気づいたらエスパーだ。


 好きな人に好きと伝える。それが簡単なことじゃないのは分かってたつもりだ。だけど自分がこんなにもチキンだとは思わなかった。

 もし断られたりしたら、恋人どころかきっと友達にも戻れなくなる。そう考えると怖くて、全然関係のない言葉しか出てこない。


 どうしよう、もうすぐ家に着く。そうなると幸助とはそこでお別れ。当然告白なんてできやしない。

 少しでもその時が来るのを送らせようと、わざとゆっくり歩く。だけどそんなことをしても意味はなく、だんだんと家が近づいてくる。

 あと何分残ってる?


 もういいや、明日にしよう。今日じゃなきゃいけない理由もないしね。

 そんな考えがしだいに頭の中で大きくなっていく。

 そして気がつくと、私の家はもうすぐそこ。告白はまた明日だ。


 だけど、そこでふと足が止まる。


 本当にそれでいいの?今日できなかった事が、明日になったらできるようになるの?

 断られるのを考えると、このまま何も言わずに逃げてしまいたい。そしたら、幸助とは今まで通り仲の良い友達でいられる。


 たけど友達じゃ嫌だから。友達より、さらに一歩進んだ関係になりたいから、だから告白しようって決めたんじゃないの?


「どうかした?」


 幸助が不思議そうに聞いてくる。

 急に私が足を止め、俯いてしまった私を見て、心配そうな顔をしている。


「さっき熱いって言ってたけど、もしかして、具合悪がいとか?」

「ち、違うの」


 熱いのは間違いない。まるで全身が燃えるようで、汗が滝のように溢れてくる。

 だけどカラカラになった喉で、必死で声を絞り出す。


「あのね、話があるの。とても、大事な話が……」


 言うんだ。私の気持ちを、ずっと抱いていた願いを。




 これは、私と幸助が友達だった最後の5分間にあった出来事。

 結果がどうであれ、秘めた気持ちを伝えた瞬間、私達の関係は変わる。変わってしまう。


 怖いけど、伝えたいから、聞いてほしいから、だから言うよ。



「あのね。私、幸助のことが……」


 期待と不安を込めながら、私はこの気持ちを声にした。

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キモチ、伝えて 無月兄 @tukuyomimutuki

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