毒・毒
望月おと
毒・毒
劇薬に劇薬を注ぐと──どうなるか想像つく?
それじゃ、毒に毒を注いだら──?
──最高にスリリングだと思わない?
***********
「君は、どうしてそんなに美しいんだい?」
この
目の前のコーヒーカップ。中に入っているブラックコーヒーから湯気が立ち上っている。私がそれに手を伸ばそうとすると、向かいから白い歯が控えめに覗く。
──残念だけど、あなたの手には乗らない。
彼も同じようにカップに手を伸ばす。
──まさか、君も……?
声に出さずとも彼の顔から考えが伝わってくる。何も知らぬふりをしよう。どんな反応をするのか見てみたい。彼好みの鈍感な女を演じ、首をやや右に傾け、上目使いを彼に向けた。
「大丈夫ですか? 顔色、悪いようですけど」
「え!? そ、そんなことないよ」
「でも……」
「コーヒーが冷めてしまわないうちに、どうぞ」
「……ごめんなさい。私、コーヒーは苦手なんです」
「え、そうだっけ? だけど、この間は──」
記憶力もいいみたい。こういう男は厄介だ。お芝居は、もうやめにする。
「……テイクアウトは安全ですから」
「それ、どういう意味?」
「そのままの意味ですよ? ふふ……」
おどけて笑うと、彼も「は、はは……」とぎこちない笑みを見せた。動揺しているのが見え見えだ。……つまらないの。
『ホテルのレストランでディナーを』そう言われて、警戒しないはずがない。コーヒーに薬を盛るというのもベタな手。カップに手を伸ばす度、下心が鼻の下を伸ばしていく。こんな簡単なトラップに引っ掛かる
「私のことはお気になさらず、冷める前にお飲みになってください」
「……それじゃ──」
彼は震える手でカップに口をつけ、コーヒーを飲み始めた。人に薬なんて盛るから、自分も同じことをされたんじゃないかと不安になるのよ。そのマヌケな姿を見たところで「すみません、お手洗いに行ってきます」と微笑を残し、席を立った。
ヒトの死に立ち会いたくはない。カツカツと漆黒のヒールで高級そうな絨毯を踏みつけて歩いていく。
──さようなら、もう貴方に会うことは永久にないでしょう。
トイレに寄ることなく、ホテルを後にした。
漆黒の夜が私を出迎えた。この世界は広い。きっと、私を楽しませてくれる
その時は、私が死ぬときかもしれない。恋は駆け引きだから。死ぬか、生きるかの……ね。
毒・毒【完】
毒・毒 望月おと @mochizuki-010
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