メズマライズ

安良巻祐介

 

 空に浮かぶ二つの白手袋が、椅子に座らされた少女の胡乱な瞳に映り込んでいる。

 瞳の中で、手は鍵盤を叩くように指を蠢かし、それにつれて青い顔が揺れ動く。蕾のような唇が、誰にも聴こえないほど小さい、かすかな呟きを溢す。

 時計の鐘の音がし、二つの手袋は少女の虹彩の奥へと吸い込まれていく。小さくなっていく。そして、消える。

 しかし、少女の首の揺れと呟きは止まらない。徐々に触れ幅が、声が大きくなり、ぶん、ぶん、という音と、意味を成さない金切り声が響いたかと思うと―――少女は椅子から離れ、まるで床に落ちた菓子細工のように、粉々に砕け散った。

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メズマライズ 安良巻祐介 @aramaki88

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