第6話 それぞれのエピローグ

 この対応にどうやら真意が伝わっていないと感じた健吾は、慌てて言葉を続けた。


「違う違う、カクヨムでの名前」


 そう、りあもカクヨム作家だと言う事で、彼はその作家名を知りたがっていたのだ。ようやく意味が分かった彼女は顔を真っ赤に染めながら、ポツリポツリと言葉を絞り出すように自分のHNを告白する。


「あの、さくらさくや……」

「え? 木下がさくや先生? マジで? 毎回の応援とレビュー有難う!」


 健吾もまたいつも自作を応援している彼女の事を気にかけていたようだ。お互いにネット上では知り合いだったと言う事ですぐに打ち解け合い、その後は創作談義に花が咲いた。


「これからもお互い執筆頑張ろうね」

「お、おう……」


 りあはいつも持ち歩いている自前のネタ帳ノートの表紙に健吾のサインを書いてもらって満足そうにしている。彼は本名とHN、どっちを書けばいいのか悩み、りあのリクエストで今回はHNだけを書く事となった。

 本人的にはノリで作った名前であまり公にしたくない名前だったので、微妙な気持ちで健吾はサインペンを走らせる。それでも書き終わった後にノートを受け取った彼女の表情がすごく嬉しそうだったので、彼もつられて笑顔になったのだった。



 場所は変わって、ステッキの本来の持ち主は現場の後始末を終えた後、無事に自分の世界に戻っていた。痕跡を消してこっそり戻ったはずだったものの、そんな小細工はすぐに見破られ、自室に戻ったところで呼び出しを受けた彼女は、母親からこってりと絞られていた。


「さて、あなたの不注意で今回人間界が大変な事になった訳だけれど……」

「えへへ」

「えへへじゃいっ! あなた分かってるの? 魔法帝の娘と言う立場を!」


 そう、マイルはこの魔法の国の王、魔法帝の一人娘だったのだ。そんな立場もあって普段は窮屈な生活を強いられ、反発心でワガママ娘になっていたのだった。

 自由奔放な彼女が唯一逆らえないのがこの母親で、今回キツく叱られた事でしょんぼりとしている。


「それは……分かってる……つもり……です」

「罰として3ヶ月間ステッキ禁止! これは預かります!」


 あんまり反省しているように見えないマイルの態度に、母親は最後の手段としてステッキの没収を宣言する。彼女はまたステッキを隠そうとするものの、魔法の実力は母親の方が上で、今度はしっかりと母親の手に渡り、ステッキは没収された。

 この罰に対して、マイルは涙目になりながら取り消してもらえるように必死で訴える。


「そんな! ママ!」

「しっかり反省なさい!」

「とほほ~」


 結局泣き落とし作戦は全く効力を持たず、母親の宣言通り彼女は3ヶ月の魔法禁止生活を送る事となったのだった。



 次の日の朝、健吾が学校の玄関で靴を履き替えていると、そこに偶然居合わせたりあがニコニコ笑顔で話しかけてきた。


「キラキラエレクトロ先生!」

「学校でその名前はやめてくれ!」


 リアルでネット上の名前を口に出されるのは恥ずかしい事だ。それが弾けた名前なら尚更で、彼は顔を真っ赤にしながらこの彼女の行為を止めようとする。

 しかし当の本人はこの事情をよく分かっていないのか、キョトンとした顔をしていた。


「だって先生は先生です」


 そこで健吾は一計を案じ、ニヤリと笑うと早速反撃に出る。


「じゃあ俺だってさくらさくや先生って呼ぶぞ?」

「いいですよ! どうぞ呼んでください!」


 キラキラエレクトロに比べればさくらさくやと言うのはまだマシな名前で、本人さえ恥ずかしくなければ、リアルバレしてもダメージは少なそうだ。それに彼女のHNの方はちょっと作家っぽい響きでもあるし……。

 自分のHNに誇りを持っているかのようなりあの態度に、健吾はますます自己嫌悪に陥ったのだった。


「くっ……、名前、改名しようかなぁ……」

「出来れば変えないでくださいね! あ、でも、変えたい時は言ってださい! 一緒にいい名前を考えましょう!」


 困っている彼を見ながら、りあは全くの善意でニコニコと笑いながらアドバイスをする。その嬉しそうな顔を見ていたら、健吾もそれ以上は何も言えなくなってしまった。


 好きな作家先生がクラスメイトだった事に、彼女は運命的なものを感じている。今後は彼ともっと仲良くなれたらいいなと、そんな事を考えるのだった。

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りあの魔法な昼休み ~空から落ちてきたステッキを振って望みを叶えようとしたら大変な事になってしまったんだけど!~ にゃべ♪ @nyabech2016

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