さいごに着る服
お棺の中のおばあちゃんの顔は、みかんを食べ過ぎたときの手みたいに黄色かった。うっすらとピンクに色付いた唇は、ちょっと違和感があった。
おばあちゃんの着ている着物は、薄いオレンジ色の地に、薄い緑や黄色が混ざっている。『納棺用』と書かれたメモが貼られたビニール袋に入って、タンスにしまわれていた。
この着物は見たことがないなぁと、お父さんが言った。おばあちゃんは、昔は普段でも着物を着ていたらしい。
おじいちゃんが見立ててくれたんだって教えてくれたことがあったわと、お母さんが言った。
おばあちゃんは、もったいなくて着られなかったのかもしれない。
その夜、座敷はいつもと違う、お線香以外のにおいもした。
ベッドで寝たらいいと言われたけど、座布団に座ってお線香の煙を眺めていた。
――わたしは、お母さんに買ってもらった紺色のワンピースがいいな。
「お父さん」
壁際に座って本を読んでいたお父さんは顔を上げた。
「わたしが一番好きなのは紺色のワンピースだからね」
「うん? ああ」
お父さんは分かったような、分かってないような返事をした。
また、お母さんにも言っておかなくちゃ。
わたしはおばあちゃんの横に寝ころんで、少し眠ることにした。
一場面集め 安城 @kiilo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。一場面集めの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます