さいごに着る服

 お棺の中のおばあちゃんの顔は、みかんを食べ過ぎたときの手みたいに黄色かった。うっすらとピンクに色付いた唇は、ちょっと違和感があった。


 おばあちゃんの着ている着物は、薄いオレンジ色の地に、薄い緑や黄色が混ざっている。『納棺用』と書かれたメモが貼られたビニール袋に入って、タンスにしまわれていた。



 この着物は見たことがないなぁと、お父さんが言った。おばあちゃんは、昔は普段でも着物を着ていたらしい。


 おじいちゃんが見立ててくれたんだって教えてくれたことがあったわと、お母さんが言った。


 おばあちゃんは、もったいなくて着られなかったのかもしれない。



 その夜、座敷はいつもと違う、お線香以外のにおいもした。

 ベッドで寝たらいいと言われたけど、座布団に座ってお線香の煙を眺めていた。



 ――わたしは、お母さんに買ってもらった紺色のワンピースがいいな。



「お父さん」


 壁際に座って本を読んでいたお父さんは顔を上げた。


「わたしが一番好きなのは紺色のワンピースだからね」

「うん? ああ」


 お父さんは分かったような、分かってないような返事をした。

 また、お母さんにも言っておかなくちゃ。


 わたしはおばあちゃんの横に寝ころんで、少し眠ることにした。

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一場面集め 安城 @kiilo

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