翠片を拾う

安良巻祐介

 

 木漏れ日を固めたような硝子片であった。

 青空にかざすと、流れてゆく白い雲の形が、翠色に透き通った波型の組成を通って、墨絵の中の仙人の息のように、不思議な紋様となった。

 何でもない日に、気の向くままに歩いて来た山道で、こんなものを拾ったのは愉快な話だ。

 掌に翠の翳を落とすそれを、あちこちと角度を変えて眺めながら、ふと、周りの木々がくすくす笑っているような錯覚を覚えた。

 上へ上へと続く山道の朝の空気は、吸い込む息も木々の色に染まってしまいそうなほどに瑞々しい。

 ひんやりとした感触を手の中に握りこんで、それが溶けてしまわないうちに、頂上まで行ってしまおうと、再び足を速めて歩き出した。

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翠片を拾う 安良巻祐介 @aramaki88

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