翠片を拾う
安良巻祐介
木漏れ日を固めたような硝子片であった。
青空にかざすと、流れてゆく白い雲の形が、翠色に透き通った波型の組成を通って、墨絵の中の仙人の息のように、不思議な紋様となった。
何でもない日に、気の向くままに歩いて来た山道で、こんなものを拾ったのは愉快な話だ。
掌に翠の翳を落とすそれを、あちこちと角度を変えて眺めながら、ふと、周りの木々がくすくす笑っているような錯覚を覚えた。
上へ上へと続く山道の朝の空気は、吸い込む息も木々の色に染まってしまいそうなほどに瑞々しい。
ひんやりとした感触を手の中に握りこんで、それが溶けてしまわないうちに、頂上まで行ってしまおうと、再び足を速めて歩き出した。
翠片を拾う 安良巻祐介 @aramaki88
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます