5/26(火) エピローグ
食堂はいつもより少し空いていた。今日はこの地域でちょっとしたお祭りがあるらしい。それに食いついて、出かけた人がまあまあいるのだろう。
お気に入りの窓際の二人席が空いていたので即座に確保して、座っておく。
今日は何にしようかな……――
「おまたせ、つき」
「むぎ、遅い」
「ごめん、同じゼミのやつにカフェオレ奢らせてた」
そう言って、むぎは手に持った紙パックのカフェオレを横に振った。
その仕草があまりに道化っぽいので耐えきれずに笑ってしまう。
「なに笑ってるの」
「あんまりむぎが面白いから……ふふ……」
途端に怪訝そうな表情を見せて、首をひねった。
「ほら、座って」
「はいよ」
向かいの椅子に座って、テーブルに肘を突くむぎ。少しお行儀が悪いが、いつものことなので目を瞑る。
「そう言えば、今日って快斗の誕生日じゃなかったっけ?」
「なんでむぎがあいつの誕生日を知ってるわけ?」
「こういう時のために、だよ」
もうこの際むぎは無視して、あいつのことを考えよう。
「プレゼントはどうするの?」
「今年も保留。起きた時のために貯金かな」
「そりゃご苦労さま」
そう言ってむぎはポケットから小さな台形のチョコ、チロルチョコを三つ出した。
「これ、快斗にあげといて」
「わかった、ありがとね」
「悪友にはとことん嫌がらせをしないとね」
それでチロルチョコですか……。
ちなみに去年はうまい棒三本セットだったはず。
早いもので、快斗が居なくなってもう二年も経った。
私たちは大学生になって、キャンパスライフを謳歌……してはいなかった。むぎはある意味ではしていると言ってもいいかもしれないが。
まだ、快斗が起きる気配はない。
黒線病の特効薬の認可が下りるまであと三年と言われているとこまでは来た。
でもまだ三年もある。その時間はやっぱり長い。
それでも私は快斗を待つことにした。
三年なんてきっと長いようで短い。思ってるよりもあっという間に過ぎ去るはずだ。
「私も麩菓子か何か、あげようかな」
「お、いいねー」
だから私はあいつを待つことにする。
快斗が目覚めた時、寂しくないように。
快斗が気が付いた時、ちゃんと告白するために。
君が眠る前に 赤崎シアン @shian_altosax
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