大学生語適当事
現夢いつき
第1話 未来考
「例えば、なんだけどさ。これから先、科学に代わるものが出てくきたとして、君はそれが何だと思う?」
エアコンがフル稼働の私の部屋にて、私と彼女はオカルト研究会の活動をしていた。
オカルト研究会――我が大学が誇る、何のために存在しているのか分からないただただ駄弁るサークルである。参加しているのは私と彼女だけだ。彼女は私の部屋に入り浸り、最近ではとうとう食事を供にするようになった。私の生活費が彼女のために圧迫されたのは言うまでもない。
そもそも、男である私の部屋にやってくること自体おかしなことなのだ。どういう神経を持っていれば、独り身である私の部屋に入り浸ろうと思うのか。異性に対する自分のふるまいを理解していないのではないか。
今日こそは彼女の振るまいについて男として注意しなければなるまい。
私は鋼のように固い決心をしつつ、理系分野に全く門外漢である私は応えた。
「文系である私になんてことを聞くんだ。そんなの分かるわけないだろう」
「いやいや、個人的にこれは文系の分野にも含まれると思うけどなあ。あ、ちなみに僕はこれから先、人間の技術は科学以外の何かが幅をきかすと思うよ」
「これが文系の分野であるものか」
「そうかなあ? 考えてもみなよ。SF小説の作家には確かに文系の人もいるんだし、そういう話はできそうじゃない? というか、今は科学の代替物を考えているんだから、そもそも現代の理数科学の知識を学ぶ理系は専門外だと思うよ。私も文系だから、そこまで言い切っていいのか分からないけれど」
その論には頷かざるを得ない説得力があったが、だからといって、私の頭に妙案
がぽんぽん生まれてくるはずがない。
「じゃあ、そういうアンタは何か思いついたのか?」
「ははは、当たり前だよ。そもそも何か思いつかないと、こんなこと言わないよ」
彼女はゴホンと咳払いして声たかだかに言い放つ。
「ずばり、科学の次は魔法がくるね。間違いない!」
「あー。そうだよな。最近暑いものなあ……。こんなになるまで気づいてあげられず、済まなかったよ」
「僕は別に、この連日の猛暑で頭をダメにしたわけじゃないよ!? 至って真面目に論じてるだけだよ! 待って、無言で冷水と熱さまシートを出してこないで!」
そう言って一度は拒んだ彼女であったが、エアコンがフル稼働しているとはいえ、二八度の室温に耐えられなかったのか、それらを私から奪い取って我が物顔で使用し始めた。
嫌がらせのために、季節外れの三色団子を出してみたが、この暑い中、喉に詰まることもなく、非常に美味しそうに食べられてしまった。彼女のごとき人が花見で団子を貪るから、『花より団子』などという風流の欠片もない言葉が生まれるのだろうと思うと、関係のないことなにどういうわけかひどく腑に落ちた。
「でね、僕がそう考える理由なんだけどね。まず、前提として科学は人間が物理法則やら何やらで説明可能にしたものと考えることにするし、魔法はそれ以外の神の御業などのせいにしなければ説明不能な超常的なものとするね」
「いいけど、いささか大雑把過ぎやしないか?」
「まあ、僕達が今論じているのはただのお遊びだからね。そんなただの
かなり強引な展開であったが、ここで彼女の足を引っ張り続けても仕方がない。私は頷きながら彼女の言葉を促した。
「それで人間ってこの先もずっと発展していくはずだよね。それこそ、数十年後には自動運転が可能になるというくらいに。じゃあ、百年後は? 流石にまだ科学至上主義かもしれないけれど、千年後はどうかな? ちなみに日本だと千年前は天皇が妖怪に殺されると怯えていたような時代にまで遡るけれど。それだけ時間が経過してもはたして科学はまだ信仰を集めているのかな?」
「信仰って。それはまた、宗教みたいな言い方だな」
「そうだね。でも、僕は科学は宗教の一種だと思うな。それこそ、今まで神で説明されてたものが、全て法則に置き換わっただけで。科学は確かに宗教的思想が定着していた社会に一石を投じたけれど、どころかひっくり返してしまったけれど、自分がした以上はし返されないとも限らないよね? むしろされて然るべきだと思うよ。いつしか、科学では説明できな領域まで技術は及ぶだろうし、その時は同時に科学が否定される時だと僕は思うな」
なかなかどうして、荒唐無稽な話だと思ったけれど、聞いているぶんには案外筋が通っていないとも思わない話であった。千年前、病をお祓いで治そうとしていたことに私達が滑稽さを覚えるのと同じように、千年後の人類は医療行為に対して腹を抱えて笑っているかも知れない。それこそ、荒唐無稽で無為なことをしていると言って。
「はたしてそんな未来はいつくるのだろうな? 魔法が科学の代わりになるだなんて私には到底受け入れがたい社会だが」
「以外とすぐかもしれないよ。飛行機がどう動いているのか物理学的に解明されていないというのに、世界では一番安全な移動手段だというし。そういう意味では、科学の領域から一歩外に踏み出しているんじゃないかな、あれは」
「なるほどな。そう思うと、なかなか現実味を帯びてくるような気がしないでもないよ」
「オカルト研究会なのに、現実味とはこれいかに? と僕は思うけどね」
ともあれ。
彼女はそこで自分の右腕につけた腕時計を見た。時刻は二時を回った頃である。
「とと、いい時間になかったから僕はもう行くね。そろそろ講義が始まっちゃう」
どうやら私は体のいい暇つぶしのだしに使われたようであった。微妙な心中で彼女が出て行くのを私は見送った。
そして、はたと気がついた。
今日もまた私は彼女に注意ができなかった。
しかし、同時にまあいいかと思ったのも事実である。
どうせ彼女はまた私のもとを訪ねてくるのだから。その時にでもまた言えばいいのだ。
……ちなみに、次に彼女が姿を現した時、私がこのことをすっかり忘れていたのは言うまでもない。
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