綿雨さんとお仕事
日曜日の朝と昼のあいだ頃、
「綿雨さん、お話があります」
優一は綿雨さんの前に正座をする。
「な、なんでしょう!」
優一のかしこまり方に綿雨さんも緊張しているようで正座に座り直した。
「お小遣いを前借りさせてください!」
「なんだ〜そんだことですか……」
「なんだか残念そうですね?」
「ふふっ、少しだけ、嬉しい気もしましたけどね♡」
綿雨さんは微笑みながら来月分のお小遣いを優一に渡す。
「でも、これで来月はゼロですからね?」
「わかってますよ」
「ふふっ、それならよろしい」
そう言って綿雨さんは部屋を出て行った。
最後の方に小さな声で、
「良かった、彼女でもできたのかと思った」と呟いていたこと忘れることにしよう。
そう言えば、もうすぐ俺が来てから約1ヶ月半が経つ。
それなのに、綿雨さんが仕事に出かけるのを見たことがないのだ。
家で行う仕事かもとも思ったが、ご飯を作ったり、家事をしたりなど、仕事に忙しそうには見えない。
なら、このお小遣いは一体どこから……?
もしかして、綿雨さんの貯金?
それなら、あまりお小遣いを貰うのは悪いのではないか……。
優一はそんなことを考えていた。
そして最終的な考えが……、
「綿雨さんを観察しよう」
ということだった。
優一は部屋を出て階段を降り、キッチンを覗く。
綿雨さんはお昼ご飯を作っていた。
(んー、仕事はしていないのだろうか……)
その後、お昼まで観察したが、仕事をしている素振りは見せなかった。
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ♡」
お昼ご飯を食べながら観察すると綿雨さんは時々スマホをいじるのだ。
そこで思いついたこと、それは……
「綿雨さんって、旦那さんいるんですか?」
単身赴任している旦那さんがいるかもしれないということだった。
その旦那さんが綿雨さんに生活費を渡しているのだろうか。
「いきなりどうしたんですか?」
「いや、少し気になって……」
綿雨さんは小悪魔的な表情でふーんと言った後、いませんよと答えた。
「そうですか……」
(なら、収入源はなんなのだろう……)
「でも、同居している点においては、ゆうくんは彼氏みたいなものですかね?」
「ぶっ!」
いきなりそんなことを言われたもんだから、つい吹き出してしまった。
「あぅ…大丈夫ですか?」
吹き出したお茶が綿雨さんのエプロンにもかかってしまった。
綿雨さんはキッチンからタオルを持ってきて優一の服、机の上、綿雨さんのエプロンを拭く。
「ふふっ、さっきのは冗談ですよ♡」
「そ、そうですよね…//」
優一は自分でも顔が熱くなっているのがわかった。
「ゆうくんは、私の弟みたいなものですかね」
「弟……?」
「優しくて、甘え上手で、頼りがいがあって、いい匂いがして、なんだかんだ頭の少し硬い、私の大切な弟です♡」
「綿雨さん……///」
後半、なんだか変だった気もするが素直に嬉しい。
自分は綿雨さんの中で特別な存在になれているとわかって、とても嬉しかった。
「ごちそうさまでした!」
「美味しかったですか?」
優一は笑顔で頷く。
「よかった♡」
綿雨さんは食器をキッチンの流しに起き、ひとつあくびをする。
「私、眠いから少し寝てきますね」
「はい、おやすみなさい」
綿雨さんはもうひとつあくびをしながら部屋に入っていった。
これ以上追求するべきだろうか?
そんな考えが優一の中にあった。
綿雨さんが何も言わない時は、本当に何も無い時なのだ。
つまり、お金の面で困っていることはないということなのではないか。
安易な考えだが、それが追求したいという思いを抑えるのには1番効果的な方法だった。
「やめよう、いつかは知る日が来るだろうし……」「ゆうくんっ!」
突然声がしたと思うとドアが勢いよく開き、綿雨さんが飛び出してきた。
右手にはノートパソコンが握られている。
「ゆうくん、聞いてください!」
「は、はい!」
グイグイ詰め寄ってくる綿雨さんの威圧についたじろいでしまう。
「私、2億の利益を手に入れました!」
「へ?」
2億という数字にあまりピンと来ない。
綿雨さんは優一にパソコンの画面を見せる。
そこにはいろいろな会社の株価の上下するグラフが映っていた。
「株……?」
「あ、ゆうくんにはまだ言っていませんでしたね。私、株で儲けているんです」
「あ……はい……」
「あまり驚かないんですね」
「いや、2億で驚きすぎて驚きという感情が東京湾に沈みました……」
「じゃあ、東京湾に拾いに行きますか?」
「比喩なので大丈夫です」
2億……あまり触れることの無い数字である。
「潰れかけていた会社に投資をしたら、運良く立ち直って……それで今や大企業になったんです。そのおかげで私は2億の利益を……」
嬉しそうに話す綿雨さんの姿が微笑ましい。
「これで、焼肉食べ放題に行けますね!」
もう少し夢を見てもいいと思うのだが……。
そういうわけで綿雨さんは実質無職で株で儲けていたことが分かったのだった。
日記
綿雨さんが嬉しそうに話している姿がとても可愛らしかった。
嬉しさで興奮していたのだろう。
赤らんだ頬が妙に艶めかしていて、ドキッとしてしまったことは内緒だ。
それにしても2億……。
焼肉食べ放題か。
今度、綿雨さんと一緒に行きたいな。
P.S.
綿雨さんがその夜、疲れてしまってリビングで寝てしまったため、俺がベットまで運んであげた。
女の子の体に触ることがあまりないのでドキドキしたのだが、綿雨さんが寝言で
「ゆうくん、いっぱい稼いで楽させてあげるからね……ムニャムニャ」
と言っていたことが微笑ましくて、
「俺が将来、綿雨さんを養ってあげます」
と、冗談っぽく言っておいた。
それでもかなり恥ずかしかったことは秘密だ。
綿雨さんは甘すぎる プル・メープル @PURUMEPURU
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