夜宴の客・06
驚いた様子のユリィに綵珪は訊いた。
「李昌の存在を君は知らなかったのか?」
「そういう話はほとんどしませんから」
栄柊に妻子はいないと聞いていたが、それ以外の身内のことなど聞いたこともなかった。
「李昌は父親を早くに亡くしている。
栄柊はそんな甥のことを以前から何かと気にかけ援助もしていたそうだ。
そして李昌は昔、父親が栄柊の交易仲間に妖国と呼ばれていた
今はない祖国の名に、ユリィは少しだけ落ち着かない気分になった。
「
俺は李昌に「妖力持ち」の情報を栄柊から聞き出すように命じた」
「聞き出すなんて、なんだかおかしいですね」
ユリィは思ったことを言ってみた。
「世珠の民は皆、個人差はあっても妖力者です。───これは
あなたが本物の王太子であるのなら、そんな回りくどいやり方などしなくても、その地位や権力を使えば橙藍国の支配下となったかつての妖国で暮らす者から直接聞くことも、命じることも、従わせることも簡単なはずでは?」
「こちらも
それに世珠国の民は戦の後そのほとんどが妖力を使って身を隠してしまった。
確かに以前にも妖力者だと疑いのある者から話を聞こうとしたこともある。けれど彼等は強い仲間意識があって、そう簡単に同胞の情報など流さない」
(同胞、ね。そりゃ私の同胞と言ったら女将さんくらいしか知らないけど)
けれど栄柊は蓮李ではなく、ユリィの存在を教えた。
だからといって、ユリィもここで
(面倒くさいけど、聞きたいことが増えたじゃないか)
ユリィは仕方なく質問することに決めた。
「あなたはなぜ妖力者を探しているのです?」
「協力してほしいことがあるからだ。
栄柊とは李昌に取り次いでもらい何度か会って話をしたことがある。
妖力者の情報を教えてほしい、知っていたら紹介してほしいと頼んだ。
だがそうは簡単に教えてはくれなかった。最初は何度も断られたよ。
しかしこちらも引くわけにはいかないから、取り引きになるような切り札をいろいろ用意した。
その中の幾つかが栄柊にとって大事な札だったらしい」
(なるほど。その札と引き換えに、大旦那さんは私のことを教えることになったのか)
栄柊が自分の利益にならない交渉などするはずがない。
一方で綵珪が本当に高貴な身分の者なら、栄柊に対して権力で従わせることもできるだろう。
例えば栄柊の商いに厳しく規制をさせるなど。
(まさか大旦那さん、脅迫されてるなんてことはないだろうか………)
あるいはその逆。
条件のいい取引内容であればまだいいが。
「一体どんな甘い蜜を大旦那さんに飲ませたんです?」
甘くても毒である可能性もある。
「彼との交渉内容までは話せないが、お互い損のない取り引きをしている。
栄柊は君のことを紹介はするが、その先のことまでは何もできないと言った。
俺が直接君と会って話をするべきだとね。そういうわけで俺は今ここにいるんだが。素性くらいは信じてもらえそうかな?」
全て、とは言い難いが。
まだ話を聞く必要はありそうだとユリィは思った。
「大層なお名前をお持ちのあなたが、下賤の娘に何の用です?」
「妖力を借りたい」
綵珪の眼差しは真剣だった。
妖魔女ですがワケあり王太子にご所望されてます ことは りこ @hanahotaru515
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