夜宴の客・05




 妓女に睨まれた程度で動じるような男ではないことくらいユリィには判るが、それがまた癪に触る。



 ユリィはプイとそっぽを向いた。



 すると何が可笑しいのか綵珪サイケイはクスッと笑い、そして言った。



「気を悪くしたのなら謝る。だが名前や身分や見た目で判断する奴は多いだろ、男も女も」




「………そうですね。でもここは大概そういう場所ですよ。嘘や本当を判断するより、一夜の夢を愉しむところですから」



(───さっさと仕事を済ませちまうか。暑いったらありゃしない)



 とりあえず早く悪夢を喰らわせて、貘がおとなしくなった後で、とっておきの催眠術を使って………。



 ユリィは再び綵珪に視線を向け、じぃっと見つめた。



(私が妖力持ちだってのを知る理由が気になるけど、今は後回し!)



 綵珪の傍にもっと身体を寄せるべきかと思案していると───、



「愉しみは話の後だ。俺がここへ来た理由を話すから聞いてもらいたい………」



 綵珪が腰を浮かせた。



「少しでも君に信じてもらうために」



 身を乗り出しながら伸ばす綵珪の指先が、ユリィの頬に触れようとした。───が、



 ユリィは簡単にそれをかわし、きっぱりと言った。



「ではお触りも話の後ですね」



 避けられたことが意外だとでもいうように、綵珪は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに首を竦めるような仕草をしてまた微笑んだ。



「そうか。では聞いてくれるのだね?」



 ───この笑顔ッ。


 なんかいちいち癇に障る奴だな!


 ………それに!


 なんだか反射で避けてしまったが、よく考えたらあのままなりゆきで、ごろニャンな体位になってもよかったのだ。



 ───私としたことが!


 焦っちまったじゃないかッ。




「………わかりました。聞きましょう」




 ユリィは苛立ちを気付かれないように、そっと息を吐いた。




 ♢♢♢



「俺は以前から妖力者を探していたんだが、なかなか見つけることができずにいた。

 だが一人の官吏と出逢ってからようやく手がかりがつかめてね。

 大広間で君に〈占〉のことで質問していたあいつ、あれは名を李昌リショウといって俺の側近だ。

 あいつが彼と引き合わせてくれたおかげで、俺は君に出逢うことができた」



 ユリィの脳裏に昼間占った花占札カードが浮かんだ。



〈出逢い〉という意味がある赤色の札。



(まさかね………)



「彼って、誰のことです?」



「李昌は君がよく知ってる男の甥だ。

 李昌の叔父の名は栄柊。この国『橙藍』でも有名な豪商主。そしてここの支配人でもあり、今夜の宴の主催者でもある」



(───栄柊の⁉)



 広間でユリィに話しかけてきた温厚そうな顔をしたあの若い官吏が………。



(あれが甥っ子⁉)






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