第8話 高柳さんは太くて短いのがお好き

 別にエロい話ではない。

 まあ、確かに僕は時々しょうもない下ネタを書いたりしているが。

 ついでに言えば、その気になれば正統派だろうが百合だろうがBLだろうが書けるくらいの知識はあるが。依頼されれば異種姦だろうが獣姦だろうが緊縛ネタだろうがスカトロだって書ける。悲しいことに書けてしまうのである。その手の本を読んでそういう系の知識もそれなりに蓄えてあるからだ。

 物書きとして雑食性であるとは、そういうことなのである。

 まあ、実際に書き上がったとしてもそれが読んで面白いかどうかは全く別の問題となるのだが。


 と、僕が物書きとしてかなりの変態であるということは周知であって既に衝撃の事実でも何でもないので、それはとりあえず横に置いておこう。


 太くて短い、何のことを言っているのかというと……ずばり、人生である。


 僕は、人生において書くことこそが己にとっての全てだと考えている。

 自分が死ぬ時、それは寿命が来た時でも怪我や病気で力尽きる時でもなく、物書きとして作品が書けなくなった時だと思っているのだ。

 僕にとって、作品作りができなくなった人生なんてものは何の価値もないのである。

 書きたいと思った作品を書き上げて、そうして満足しながら死にたいと、そう思っている。


 僕は、人生は四十年もあれば十分だと考えている。

 無論、この考えを他人に押し付けるつもりはない。長生きしたいと願っている人は、どうぞ八十年でも百年でも生き抜いてほしいと思っている。それを見て愚かだと笑うようなことはしない。生きることは誰にでも与えられた当たり前の権利であり、それを咎める権利は誰も持っていないからだ。

 僕が人生四十年と言っているのは、おそらくその頃が、僕の物書きとしての生命が尽きる時だと予想しているからである。

 僕は、幼少の頃から創作活動をしてきた。元々は漫画家志望だった僕は、小さな子供の頃からノートやチラシの裏なんかに漫画を描いて独自に絵の描き方や物語の作り方を独学で学んでいたのだ。

 色々あって自分に漫画家としての才能がないとはっきり分かってからは、漫画家になること自体は諦めたが、それでも創作活動自体をやめることはできずに、作家志望に転向した。当時の人気作品だったライトノベルを読んでそこから文章の書き方を学び、言葉を学び、ライトノベルというものがどういうものなのか、どんなテクニックがあるのか、などということを学んだ。そうして現在に至る。

 もう年齢暴露になってしまうことを覚悟の上で言うが、僕の創作歴は小説でいえば二十年以上、漫画家志望時代を含めれば三十年を超える。それだけ長いこと、僕は創作の世界に身を置いているのである。


 それだけ長いこと書き続けていると、否が応でも自覚してしまうのだ。自分には、物書きとしての才能もなかったのだということを。


 現在はプロになることを諦めて、趣味の中でだけ作品を書いている。だから創作活動自体は随分と気楽にやらせてもらっている。締め切りでせっつかれることもないし、何を書いても(よほど公開に問題がある内容でない限りは)怒られることもないのだから。

 だが、一方で空しくなるのである。プロを目指しているわけでもないのに、どうして自分は趣味と割り切っていつまでも底辺作家の世界を彷徨っているのだろうかと。

 趣味なんだからいいじゃないか、と言う人もいるだろう。確かにそれは考え方として正しいと僕は思う。

 しかし、僕はそうやって自分を納得させようとする自分の甘さが許せないのである。

 アマチュアだが、底辺作家だが、それでも僕は物書きの端くれなのだ。物書きとしてこの世界にいる以上は、何かひとつだけでも、輝けるものを世間に残したいのである。この世界にはこういう作品を書いた奴がかつては存在していたのだと、周囲に声高に叫びたいのである。


 花火のように、一瞬ではあるが美しく大きな花を咲かせる。そんな人生を送りたい。

 だから、僕にとっては人生というものは四十年もあれば十分なのだ。自分が満足できる、短いながらも充実した人生。この人生がそういう形であったと納得できたならば、きっとその時は、僕は何の悔いも抱くことなくこの世を去ることができると思っている。

 だが、もしも、仮に。どうしても書き上げたい人生最後の目標となる小説を書き始めて、それが完結しないまま四十歳の時を迎えたとしたら──

 その時は、僕は変わらず世界の何処かでその作品を、完結させるまで書き続けているだろう。

 そして、いつか。誰かがWEB世界の何処かでひっそりと埋もれているその作品を見つけて、そこに記されている僕の名前を見て、ああそういえば昔こんな名前の物書きがいたなとちょっとだけでも思い出してもらえたら……

 それだけで、僕がその作品を世に残した理由はあったのだろうと、そう思う。

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高柳さんの独白 高柳神羅 @blood5

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