終わりの果ての夢を見る


誰も彼もがズタボロで、何かが通り抜けていっそ大笑いしたい気分だった。



圧倒的不利な中で、魔女様の魔法が発動して。

あっという間に形勢は逆転した。


ひょっこりと現れた皇夜陛下が大将の首を切り捨てて終了。

ドロドロの戦は、なんともあっけなく終わりを迎えた。


彼女が消えてしまうのも一瞬だった。

彼女との接続が切れた後も、魔女様を呼び続けて。

混沌とした戦場の中を探し続けたけれど。

彼女がそこにいた痕跡は、何も残ってやいなかった。



「これで、どうやってあなたの生きた証を示せばいいんです」



未だ死体と、それを回収する兵士たちと、それから幽霊が彷徨く戦場をあてもなく歩き続けた。

まるで、僕も幽霊みたいに真っ青な顔をしていた。



ふらふらと歩き、時折木陰で少し休んで。また歩き出す。

そうして、やがて死体も兵士も幽霊すらも少なくなったきた頃。




「まだここにいたのか」




唐突に、皇夜陛下が現れた。



「今回の礼だ。殺してやろうか」



陛下はいつもよりやつれたようだった。

僕はそれを見上げて、ふふっと笑った。

ぴくりと陛下の眉毛が動く。


「本気で殺してくれるの?」


そんなの、聞かなくても答えはわかっていたけれど。


「ああ」


ふうん。僕はまた笑った。

なんだか、彼女が乗り移ったみたいだった。


「それは、魅力的だな」


でも。


「今は、もう、いらないかな。その代わりに、一つ」



さわさわと風が頬を撫ぜる。


目を閉じて、僕の最高の思い出に記憶を馳せて。


「魔女様の森と家。僕が貰ったので。手を出さないでくださいね」



そうして、僕は陛下に背を向けてまたふらりと歩き出した。









戦禍は過ぎ去り、戦場は青葉に萌え、名もなき無数の墓標にはるの風が吹く。

その一つに寄りかかって、僕は微睡みに身を任せることにした。



「ねえ、魔女様………」



最果ての、向こうの世界を歩いているだろう彼女に会えたのなら。

伝えたい言葉を夢で紡ごう。








「愛してますよ、僕の魔女様」























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致死と毒薬 八月文庫 @leefie_no

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