2 on 1

白猫亭なぽり

2 on 1

 クーラーがイカれた文芸部の部室に戻ると、二人が相変わらず仲良く作業に励んでいた。

 寝っ転がっている少年・アキの担当は、物語のアイディアを出して全体の方針を決めること。

 窓辺に寄りかかっているヘッドホンの少女・ヒカリが、実際に文章を書く担当だ。

 北国とはいっても、今年の夏の暑さはだいぶこたえる。二人のだらしない格好がそれを物語っていた。


「どうかな、アキ」

「……起き抜けの布団のような匂い、って何?」

「あたしは結構気に入ってるんだけど」

「可愛い女の子ならまだしも、オッサンを連想したらこのシーン台無しだろ? ヒカリ、本当に時々わけわかんない表現するよね」


 そうかなぁ、と頭をかきながら、ヒカリは赤の入った原稿を受け取る。

 執筆に全くやる気をだせないアキと、文章が上手い代わりにストーリーを破綻なく作るのが苦手なヒカリ。そんな二人を試しに組ませてみたのが、案外うまく行っているようで、部長の僕としては一安心だ。

 だが、僕に気づいているはずなのに、二人とも意に介さず作業に没頭している。これはさすがにいただけない。


「先輩が来ても寝っ転がったままで、挨拶もできない部員にあげるサイダーはないです」

「こんにちは、先輩。今日もよいお日柄ですね!」

「お疲れ様です! 相変わらずカッコいいメガネですね!」


 突然正座しておべんちゃらを言う二人に、僕はため息をついてペットボトルを手渡す。全くしょうもない部員たちである。


「原稿は進んでる?」


 二人は自信満々に頷く。


「今に見ててくださいよ。先輩が跪いて命乞いする小説、仕上げてみせますから」

「首根っこ洗って待ってろ、インテリメガネ野郎」


 先輩を野郎呼ばわりとは生意気な後輩だ。

 僕がとある文学賞で新人賞を取って以来、小説の話となると、急に遠慮会釈のない物言いをするようになった。


「一人じゃ無理だけど、二人なら、先輩のこと追い越せますよ」

「二刀流で一刀流に負けるはずないし?」


 どこからその自信が出てくるのか、ずいぶんなことを言ってくれる。

 実に頼もしい後輩だ。これくらいの敵愾心を見せてくれるライバルがいるほうが、かえって張り合いがあるというもの。


「面白いね。いいぜ、僕に勝ったら何でもいうこと聞いてやる」

「その言葉、忘れないでくださいよ?」

「男に二言はない。アキ、やるよ。絶対に負けられない戦いが、ここにはある」


 そう言って二人は作業に戻る。

 呼吸をぴったり合わせ、互いの足りないところを補うその様子は、まるで双子だ。

 やる気に満ち溢れた頼れるのは結構だが、彼らは同時にライバルでもある。先輩として、簡単に影を踏ませるわけにはいかない。

 原稿に向かう前に喉を潤そうと、僕はペットボトルの封を切る。

 瞬間、炭酸と一緒にレモンの匂いが弾け、ほのかな爽快感が部室に広がった。

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2 on 1 白猫亭なぽり @Napoli_SNT

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