あと五分

陽月

あと五分

 視線を上げ、黒板の上の時計を確認する。残り時間は、五分。

 あと五分もあるのか、五分しかないのか、同じように確認した者でも意見が分かれるだろうが、今の自分は前者だ。


 窓際の席ならば、ぼけーっと外を眺めて過ごすこともできただろうが、教室のど真ん中のこの席では、叶わない。

 普段の授業なら、こっそり、机の下に隠した漫画を読むこともできるが、期末試験ではさすがにできない。

 あまりキョロキョロするわけにもいかず、ただただ終了のチャイムを待つのみだ。


 一通り問題を解いたところで、残り十五分。そこからざっと見直して、残り十分。

 数学ならば、分からないと判断した問題も、考え直せば、あるいはああでもないこうでもないと数式をいじっていれば、解法が見えてくることもある。けれど、日本史なんて、覚えているかどうかだけだ。考えたところで、どうにもならない。

 計算間違いをしていないか、再度計算し直してみる余地もない。

 ただただ、暇な時間が続くだけだ。


 小学生の頃はよかった。終わったらさっさと提出して、図書室へ行けた。

 他のクラスは授業中だから、休み時間というわけではなく、運動場へ出れるわけでもないし、静かにしていることという制約もついた。

 それでも、ぼけっとしているだけから解放され、好きな本を読んでいていいというのは大きい。

 同じように早々に出てきた友達と、小さな声でなら「あれの答えって」というような話もできた。

 けれど、今はただただ時間が経つのを待っているだけだ。


 再び時計を確認すれば、あと三分。たった二分しか進んでいない。

 三分か、カップ麺の待ち時間だ。五分の待ち時間のもあるよな。

 あれはあれで、待ち時間が長い。けれども、他のことをする余裕もあって、下手をすると時間が過ぎていて、のびた麺を食べる羽目になる。

 個人的には、三十秒くらい早めに開けた固めの麺が好きだ。


 そう言えば、最近カップ麺を食べていないな。カップ麺のことを考えていたら、食べたくなってきた。

 買って帰ろうか。いや、でも、食べるタイミングはあるのか?

 母さんが食事を用意してくれているのに、カップ麺があるからいらないというのは、さすがにできない。

 そもそも、カップ麺だけを食事代わりにするには、量が少ない。別途、ご飯が必要だ。

 それならば、おやつのタイミングか。


 時計を見る。もうすぐあと一分。

 十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、十、九、……。

 秒針の動きに合わせ、心の中でカウントダウンを行う。一分くらいなら、これでやり過ごせる。


 四、三、二、一。終了を告げるチャイムが鳴った。

「はい、そこまで。後ろから解答用紙を回して」

 ようやく、解放される。

 教室の空気も、それまでのシンとしたものから、ざわつきを含んだものになる。

 けれど、この緩んだ時間も少しの間だけのことだ。十分の休憩を挟んで、次の試験が始まる。


 この十分は、すごく短い。

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あと五分 陽月 @luceri

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