カナタさんの天使のような笑顔を楽しみに、僕はこれから生きていくつもりだ!

中堅戦で死闘を演じた上邑さんも保健室から戻ってきて僕の大将戦に間に合った。


「カトオくん、頑張って!」

「うん!」

「カトオ、これで決めてくれ!」

「分かった。必ず勝つ!」


さすがに小橋ももはや切羽詰まった状態になっているようだ。おそらく油断せずに死に物狂いで戦ってくるだろう。正直、付け入る隙が減ってしまった。けれどもそれでこそトレーニングと僕の根性の全勢力をぶつけるに相応しい状況だ。


「そおっ!」

「うおーっ!」


僕と小橋は無駄口を一切叩かずに純粋に柔道を始めた。小橋も必死だ。荒っぽさが単なる嫌がらせではなく、純粋に僕を目の前の敵として倒そうという切実さが見て取れる。


「この、この、このっ!」


さっきのカナタさんを真似したような組手争いを小橋は仕掛けてきた。


「うっ!」


小橋の拳が僕の鼻を直撃した。なにやらぬめっとしたものが鼻の奥から染み出してきた。


「カトオ、鼻血なんか放っておけ! 小橋の目から視線をそらすな。小橋を睨み続けてやれ!」


カナタさんのいう通りだ。鼻血なんかどうでもいい。僕は小橋の目の奥を睨み続けた。すると不思議なことに小橋の動きがスムーズに予測できるようになった。


「いいぞ、カトオ。そのまま技をかけるタイミングを測るんだ!」


小橋は元サッカー部だ。エースストライカーだった。瞬発力もスタミナもある。けど、覚悟と根性は絶対に負けない。負けるはずがない。


「いくぞ!」

「う」

「いくぞ、いくぞ、いくぞ!」


僕は視線で小橋を威嚇し続ける。実はもう勝負あったと僕は確信していた。さっきカナタさんが柔道部を半殺しの目に合わせて小橋を射すくめた時、すでに小橋は負け犬の性根を植え付けられてしまっていた。こんな廃人同然の奴に負けるわけにはいかない。僕は次の動きが勝負の決めどきだと悟った。


「くそおっ!」


中途半端な姿勢で小橋が突っ込んで来る。僕も全力で突進し、胸をがちっと合わせ、右足で小橋の両足を刈った。


「ショウっ!」


そのまま浴びせ倒す。小橋は受け身も取れずにバシン! と後頭部を畳に叩きつけられた。


「一本っ!」


わああっ! とコミュニティのメンバー全員が僕に駆け寄ってきた。


「やった、ほんとにやったよ俺たち!」

「カーストなんか、もうどーでもいーよ!」


カナタさんも笑顔で勝鬨をあげている。

上邑さんが小橋に歩み寄る。


「小橋くん、ワニダ受けてもいいよ」

「あ?」

「わたしは絶対合格するから。でもわたしが受かって小橋くんが落ちたら恥だね」

「・・・・」

「おー、そうだそうだ。上邑、言うじゃん! そっちの方が面白そうだ。小橋、受けろ受けろ!」


わはは! とカナタさんが豪快な笑いをする。

僕はカナタさんに懇願する。


「カナタさん、せめて笑い方だけでもいつかの可愛らしいやつにしてよ」

「え? なんだカトオ。お前、わたしに惚れてんのか?」

「・・・うん。僕はカナタさんのことが好きだよ。女の子として、大好きだよ」

「ほんとに?」

「うんほんと」

「分かった。じゃあ、カトオと2人きりの時だけ可愛らしく笑ってやるよ」

「うん。あの、天使みたいなやつ、お願いね」

「あほ」



おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

可憐な容姿とは裏腹にハートがきっつい少女は心が腐った輩をしばき倒すのが常 naka-motoo @naka-motoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ