カナタさんの怖さは毒舌でも暴言でもなく、実は無言にあった
開始と同時にカナタさんはにやりと笑う。そして、いつもの調子を出し始めた。
「まるで異種格闘技戦だな」
「なんだと?」
「相撲部屋だろ、お前」
「この!」
挑発された力士、じゃなかった、柔道部無差別級は体格に似合わない俊敏さで組手を始める。
ビシ!
「お?」
ビシ!
何度やっても柔道部の組手がカナタさんの素早いジャブのような手の動きに払いのけられる。
「この、白帯のくせに」
「ああ。わたし柔道は白帯だけど、空手は黒帯だよ」
「なんだと?」
「まあ、ほんとに異種格闘技戦ぽくしてあげるよ。ほれ!」
「わっ!」
まるで正拳突きのように拳を繰り出してカナタさんは相手の胸ぐらをつかもうとする。
「ほれ、ほれ!」
ビシュ、ビシュ、と、顎あたりにも拳が届きそうな勢いだ。
「んなもん、故意だろ。審判!」
「組手争いですよ。先生!」
「続けて!」
「くそお」
柔道部がいらつき始めた。当然挑発も含めてカナタさんの作戦だろう。はっきりいっていくらなんでも女性のカナタさんが柔道でまともに無差別級に勝てるとは思っていない。カナタさんはなにがしかを狙っていると見た。
「ならもっと行くよ。せっ!」
「うお!」
「せっ、せっ、せえっ!」
「この、ヤロ!」
カナタさんはまるでブルース・リーばりのフットワークまで使い始めた。柔道部は怒り心頭に発し、突進力を溜め込み、重心を思い切り低くして一気に体ごとぶつけるような圧でダッシュしてきた。
「よし。これを待ってたんだよ!」
カナタさんは瞬間移動のようなフットワークで柔道部の突進をかわし、同時に背後から彼の体に飛び乗ってまるで肩車のような態勢になった。そのまま見たこともない絞め技に入る。
「ヘイ!」
一言だけ気合を入れて、立ったままの態勢で締めが決まっているのが素人の僕たちにも分かった。そして、柔道部がとても危険な状態だということも。
慌てて体育教師が止める。
「カナタ! 勝負あった! 解け!」
カナタさんはやめない。そのままカナタさんの腕の筋肉をがもりもりと盛り上がる。
「やめろ、死ぬぞ! カトオ、止めてくれ!」
「カナタさん! ダメだよ!」
必死になってカナタさんの体を引っ剥がした。どおっ、と柔道部の巨体が倒れるとようやく解けた。
小橋たちは言葉も出せない。
「お前ら、上邑のことさんざん蔑みやがって。絶対許さんぞ!」
凄まじい目で小橋を睨みつけると小橋がブルブルと震えているのが僕には分かった。
「カトオ、こんな奴畳に100回叩きつけてやれ!」
「もちろん。僕だってこいつだけは絶対に許さない」
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