上邑さんの戦いに僕は激しく心動かされた!

「はじめ!」


先鋒の種田くんと相手の元バスケ部レギュラーは身長差が20センチ近くある。種田くんの方があらゆる面で小柄だ。


「ヘイヘイ! そんなチビ秒殺だ!」


種田くんは開始早々バスケ部の腕力任せの組手に引き摺られている。見た目にはバスケ部が優勢だ。


「どっせー!」


バスケ部が派手な声を出した。


「!」

「あっ!」


「せええいっ!」


種田くんが相手のくるぶしに足裏をガシッと当てたと思うとそこから早送りのようなスピードで、ぐるん、と長身が畳に叩きつけられた。電光石火、秒殺されたのはバスケ部の方だった。


「うおおおっ、やった、種田!」


カナタさんが吠える。


「すげーぞ、種田くん!」


僕も大声をあげた。


「ああー、何やってんだよ!」


小橋たちは仲間に向かって責めの言葉しか発しない。まあ、そういう人なんだな。


「よーし、俺も続くぞ!」


次鋒加瀬くんの相手は元野球部のピッチャーだ。上背はないけれども全身筋肉の鎧を着たガタイの良さで、難敵だ。けど、加瀬くんは遠慮など一切せずにすばしこくしつこく相手を責め続けた。


「加瀬、野球部バテてるぞ! 責めまくれ!」


結局引き分けたが、野球部は滝のような汗をかいて息も絶え絶えになっている。加瀬くんは十分に役割を果たしてくれた。


「上邑」


カナタさんが上邑さんに声を掛ける。


「上邑の方が、絶対に根性入ってる。上邑がやりたいようにやっておいで!」

「うん。絶対に勝つ!」


「はじめ!」


「あ!」

「あ!」


相手は元レスリング部。まるでタックルのように両手狩りで上邑さんをすっ転ばせた。


「はは、どんくせー」

「やっぱり上邑は上邑だよ」


そして、レスリング部はそのまま上邑さんの右手をひしぎにかかった。


「ああっ!」


苦悶の表情をする上邑さん。


「あいつ、女の子相手に」

「バカ、こんなもん織り込み済みで戦わないでどうする。上邑! 耐えろ! 絶対にチャンスはある! 根性見せろ!」


カナタさんが怒号を飛ばす。

鬼気迫る表情で歯をくいしばる上邑さん。


「くおおおおっ!」


半分白目になっている上邑さんを小橋たちがヤジる。


「うえー、気持ちわりー! さっさと参ったしろよ!」

「黙れ、小橋! 上邑、絶対に参ったするなよ! 根性だーっ!」

「頑張れ、上邑さん!」


「負けない、わたしはもう底辺は嫌だ! ぜーっ!」


「ああ!」


絶叫を上げて上邑さんはオチた。最後まで参ったしなかった。


「あーあ。もはや女のかけらもないキモさだな。まあ、これで1勝1敗1引き分けだ。次はアンパイだしな」


小橋がそういうと副将の柔道部も爆笑した。


「部活もやってこなかった奴らが生意気なんだよ。残り連勝で決まりだ」


そう言って畳に上がり、態度悪く礼をした。カナタさんは深々と礼をする。珍しく無言で睨みつけた。


「お? いつもの毒舌ももう出ねえか」


「はじめ!」

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